パニック障害、不安障害|埼玉県さいたま市大宮区 心療内科|心と体のクリニック

心と体のクリニック 大宮市

パニック障害・不安障害

パニック障害

パニック障害とは

 パニック障害とは、突然の動悸や息苦しさに代表されるパニック発作で始まる病気です。何度もパニック発作を体験すると、また発作が起きるのではないかと不安になり(予期不安)、発作が起こりそうな場所が怖くなり(空間恐怖)、そうした場所を避ける(恐怖性回避)ようになります。

 このようにパニック障害は、パニック発作→予期不安→空間恐怖、恐怖性回避という経過をとることが多く、発作が一回起こっただけでも、60~80%の人がその後、予期不安や空間恐怖を経験します。
患者さんが発作が起こりそうだと心配する場所(空間恐怖になりやすい場所)は、電車やバスなどの乗物や、歯科医院や美容院、人ごみなどです。これらの共通点は、自分の意志だけではその場から離れにくい場所です。

 生涯において一度でもパニック障害になる人は人口の1~2%といわれ、これは世界のどの地域でも大差がないとされています。発症年齢は20代~30代前半です。

 幸い、薬を服用するだけでパニック発作自体は速やかに治まることが大半です。しかし「また発作が起きるのではないか」という不安はなかなか消えにくため、どうしても電車やバスなどの乗物や人ごみなど、発作が起こりやすい場所を避けたいという気持ちになりやすいようです。この結果、なかには長期間にわたって休職や休学をしたり、毎日の生活に支障を来している人さえみかけます。

 しかしそうなってしまった人でも、薬物療法などの治療に加え、本人によるある程度の根気強さと努力があれば、日常生活に不自由しないレベルまで回復することは十分可能だと私は考えています。

パニック発作の症状(DSM5より。要旨のみ)

 突然激しい恐怖,または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し,その時間内に,以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。

  1. 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震い、手足の震え
  4. 呼吸が早くなる、息苦しい
  5. 息が詰まる
  6. 胸の痛みまたは不快感
  7. 吐き気また腹部のいやな感じ
  8. メマイ感、ふらつき、気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱気
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ),または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うことに対する恐怖

3タイプあるパニック障害

 私はパニック障害を以下のように3つのタイプに分けて治療に当たっています。受診が多い順で説明しましょう。

タイプ1 パニック発作の後、空間恐怖になる

 健康で何の問題もなかった人が、電車の中などでパニック発作を起こしため、その後電車に乗るのが怖く(空間恐怖)なるケースです。

【例:40歳女性】

「パニック発作を起こしてから、すっかり乗り物が怖くなりました。今までなんでもなかったのに、駅に向かおうとするだけで不安になって動悸がする。今まで何でもなかったのにどうしてなのか、自分でも不思議です」

タイプ2 不安障害があった人がパニック発作を起こす

 以前から何かにつけて不安を感じやすい人がパニック発作を起こした後、空間恐怖が新たに加わったり強くなるケースです。

【例:25歳女性】

「もともと怖がりでブランコやジェットコースターなどは避けていたのですが電車は怖いと思ったことがなかった。それがパニック発作の後は出かける話になるだけで不安になってしまう」

タイプ3 パニック発作の後も空間恐怖にならない

 電車の中などでパニック発作を起こした後も、電車に乗るには不安を感じないケースです。

【例:30歳男性】

「この前、大事な会議に遅れそうになったので、駅のホームをダッシュで走りました。走りながら『またパニック発作になるのでは』とは思ったけど、会議の方が大事ですから」

パニック障害の治療

 私は空間恐怖がない場合、パニック発作の再発防止は薬だけ十分可能だと考えています。したがってタイプ3の治療は、発作の頻度が少ない人には、発作が起こりそうなときだけ抗不安薬だけを服用、しょっちゅう発作がある人には主にSSRIを服用してもらっています。

 タイプ1の人は空間恐怖(乗り物恐怖)をどうするかが、治療の中心になります。タイプ3の人は薬で発作が抑えられるのに、タイプ1の人は薬だけではうまくいくとは限らないのです。

 それは「また発作が起きるのではないか」という気持(予期不安)が、パニック発作を起こしやすくするからでしょう。このためには行動療法的対応が必要になります。

 これは一言でいえば実地練習のことです。やりやすい方法としては、薬を服用した上で、不安が比較的少ない現場で、実際に発作が起きないことを体験する方法です。例えば「空いている電車に一駅だけ乗ってみる」「それもだめなら電車に乗ることを目的にしないで駅に行ってみる」などです。

 こうした練習は、予期不安や空間恐怖を徐々に軽します。
タイプ2の人はパニック発作が起きるまでの状態で、治療方針が異なります。軽い人はタイプ1に準じた治療だけで対応可能ですが、予期不安がなかなか減らず元々あった不安障害の治療が必要な人も少なくありません。

不安障害

不安障害、どんなものがあるか?

 不安や恐怖に関連する病気はいくつもあり、自分がどんな病気に該当するか分からない人もいます。それもそのはず、実はその分類はかなり曖昧だというのが実情です。しかしアメリカの精神医学会が提唱する診断規準、DSM5は比較的わかりやすい分類で、日本でも重視する医師が多いので、挙げておきます。

不安障害の内訳 (DSM5)
  1. 分離不安障害
    愛着を抱いている人(親など)から、分離することに対する過剰な不安や恐怖
  2. 選択的寡黙
    特定の状況(学校など)だけにおいて、全く話ができない
  3. 特定の恐怖症
    飛行機、高所、動物、注射など特定の事柄に対する不安や恐怖
  4. 社会不安障害、社会恐怖
    対人恐怖とほぼ同じ
  5. パニック障害
  6. 広場恐怖
    乗り物や広い場所、狭い場所(映画館、エレベータなど)、列に並ぶとき(スーパのレジなど)で生じる不安や恐
  7. 全般性不安障害
    いくつもの事柄に対して不安や心配がしばしばあり、その心配が制御できない。

不安性障害(バニック障害)を克服した人たち──乗物恐怖を例に

 SSRIなどの薬物療法が効果的なこともあり、不安性障害(パニック障害や乗物恐怖などの空間恐怖)は治療によって日常生活に支障を来す状態から脱出できる人が大半です。しかし改善はしても「できれば電車は避けたい」といった、苦手意識が抜けないで困っている人が少ないないのも確かです。

 そこで乗物恐怖を例に不安性障害(パニック障害)を実際に克服できた人を参考にして、どんな要素があれば克服しやすいかを挙げてみます。

1必要性

 克服のために一番大切なことはなんでしょうか。病気のことを知らない人なら「乗り物が怖いなんて、勇気がないからだ。勇気を出せば克服できる。だから一番大切なのは勇気を持つことだ」などと思う人がいるかもしれません。

 私はその意見に賛成しません。「必要は発明の母」という英語圏のことわざがあります。乗物恐怖の克服はもちろん発明とは言えないのですが「必要性」は重要な要素で、早く治る人となかなか治らない人との一番の差は勇気ではなく、必要性のようです。

 たとえば電車を利用する外回りの営業マンと専業主婦のどちらが治りやすいかというと、営業マンです。営業マンにとって「電車に乗れない」では仕事にならないので、治ろうとする必要性が強いからです。

 ちなみに「楽しみ」も必要性になります。たとえば電車に乗って目的地まで行くと、そこで楽しいことがある、という場合です。ある患者さんはデズニーランドに行きくのが楽しいため、いつの間にか電車恐怖を克服してしまいました。

2慣れる

 営業マンが治りやすい理由は必要性の他にもう一つあります。それは「慣れる」という経験をしやすいためです。しょっちゅう電車に乗ると、必然的に発作が起こりそうになったときの対処も早くなります。

 また発作は、長くても20分ぐらいでピークを迎え、後は次第に軽くなることが多いのですが、そのパターンが予想できるだけで「これからどうなるのだろう」という心配が弱くなり、「今は苦しいけど少し待てば良くなる」と思えるようになります。

3かわす( 躱す)

 かわす( 躱す)は慣れるに近いのですがちょっと違うものです。乗物恐怖の人が不安を感じるのは、満員電車で身動きが取れない状況です。最悪なのは駅と駅の間で電車が止まっていつ運転再開になるか分からない、という状況のようです。

 ではなぜ、そんな状況のとき恐怖や不安を感じるのでしょうか?「ばかばかしい、当たり前のことだ」などと言わずに考えてみましょう。たとえば夜眠っているとき身体は布団の中では動きませんが、身動きが取れないとは感じませんね。つまり「自分が思うように動けない」と考えてしまうことが、恐怖に繋がっているのです。

 仮に、動こうと意図していなければ「動けないのでは」という不安は起きません。つまり動きたいという気持がなければ、動けないことは苦痛の種にはならないことになります。

 それを人工的に作ってやるのです。たとえば人間は同時に複数のことは考えにくいという性質があります。したがって例えばスマホに注目すると周りのことが気にならなくなるし、動きたいという考えも起こりません。このように注意や関心が向く対象を見つければいいのです。具体的にはスマホを見ることの他に本や音楽、他の事を考える、ガムを噛むことなどがあります。

 ある患者さんは、「私は発作が起こりそうになったら、一分間を予想するのです」と教えてくれました。そのやり方は自分で1、2、3・・・と数えて、一分たった頃に実際とどれぐらい時間がずれるかを確認する、というもの。こんなやり方が果たして他の人にも有用なのかどうか、私にはわかりませんが、この人のように自分にあった方法を探すという態度は大事だと思います。

4鍛える

 意外かもしれませんが不安性障害(パニック障害)の人でマラソンや登山、格闘技といった過激な運動を始めることで病気を克服したという例は少からずいます。激しい運動をすると、当然ながら呼吸は荒くなり、動悸もするので、見かけ上はパニック発作と変わらない状態に思えます。そこで当初私は、パニック発作に近い体験をするので発作に慣れるのだろうと考えたのですが、当人たちに質問すると「パニック発作と運動中の息苦しさとは全く違う」と口を揃えて言います。つまり慣れるので克服できたわけではないようです。

 なぜ克服できるのか、実際の体験がない私には分かりませんが、おそらく発作に対して「自分の力ではどうしようもない」というコントロール不能の感覚が、自分を鍛えることで、たとえ部分的でであってもコントロールが可能だ、という感覚に変わるからではないかと推測しています。

どんな人がパニック障害になりやすいのか

 心療内科の病気、全般的に言えることですが、バニック障害の場合も病気の原因として、もともとの素質、育った環境、ストレスなどの最近の出来事の三つが取り上げられることが多いようです。一応順番に述べてみます。

(1)パニック障害は遺伝する?

 パニック障害は遺伝要因が一部関係するとされています。その根拠として、たとえば一卵性双生児において一方がパニック障害の場合、もう一方がパニック障害になる確率が20~40%あるからです。しかし、パニック障害の原因となる特定の遺伝子は見つかっていないので、多因子遺伝(特定の遺伝子ではなく、多くの遺伝子が関係することで顕在化する)ではないかと推測されています。

(2)パニック障害になりやすい性格はある?

 さまざまな見解があるようです。それを列挙すると内向性(引っ込み思案で内気な性格)、素直で気配り、依存性、不安気質(何事にも不安を感じやすい)、神経質などです。しかし未だ明確な答えがないというのが実情のようです。

 私自身の印象としても生真面目で心配性や、一人で決断したり行動することをためらう依存的傾向が多いようには思いますが、反対に社交的で行動的な人も珍しくないので、はっきりしないのです。

 また仮にパニック障害に特有の性格特徴があるとしても、もともとの性格というよりも、パニック発作を経験することで変化した性格の可能性もありそうです。

(3)子供時代の環境との関係は?

 子供時代に分離不安の体験があると、パニック障害になりやすいという研究報告があります。分離不安とは要するに親がいなくなるのではないかと心配することです。虐待や両親の不和などがこれに当てはまります。

 ただ極端な例は別として、パニック障害の人が特別の子供時代を経験しているという印象を私は持っていません。「私の両親はよく夫婦喧嘩をしていました。それで私がパニック障害になったのですか?」と質問した患者さんがいました。夫婦喧嘩の内容はどこの家庭にでもあることに思えたので、そのときは「たぶん違う」と答えましたが、本当のことは誰にも分からないでしょう。

パニック障害の原因は?

(1)脳機能の問題

 パニック障害の原因として、以前は「気のせい」とか「性格」といった捉え方をされることが多かったのですが、最近は脳機能の問題であると考えられています。

 そのメカニズムの有力な仮説として、扁桃体(大脳辺縁系の一つ)を中心とした「恐怖神経回路」の過活動説があります。扁桃体は快・不快や恐怖などの情動中枢とされています。たとえば山の中で熊に遭遇したとします。すると熊を見たという視覚刺激が視床(大脳の一部の、間脳と呼ばれる場所にある)に伝わり、それは扁桃体で恐怖感情を生みます。

 さらにその刺激が、視床下部(間脳にある)や青斑核(間脳と延髄の間にある)などの神経部位にも伝わり、動悸や過呼吸症状といったパニック発作の症状を引き起こす、というわけです。

 またこの神経回路のコントロールにはセロトニンが関与しているのですが、セロトニンの働きを強めるとされるSSRI(商品名パキシルやレクサブロ)がパニック障害に有効であることも、この仮説と矛盾しません。

(2)ストレス要因

 典型的なパニック障害は「何の理由もなく突然パニック発作に襲われる」とされています。しかし実際にはストレスが関係している場合が多いです。

 一つは不眠や過労といった物理的ストレスです。良く見かけるのは仕事が忙しく、睡眠不足になっていた状態で乗った電車の中で初めてパニック発作が起こす、というケースです。

 もう一つは心理的ストレスです。「身動きができない」とか「追い詰められた」という感覚に陥る状況のときに多いようです。満員電車の中は「身動きができない」という物理的な状況ですが、これと同じような心理的状況です。たとえば上司と部下の意見の食い違いといった、対立の間に挟まれ身動きができないときです。

 また「追い詰められた」というのは、期日までのノルマが達成しそうにないといった状況です。

(2)パニック障害を誘発する嗜好品や薬などは?

 今述べたように不眠や過労はパニック発作を誘発しますが、注意すべき嗜好品や薬もあります。

 カフェイン:パニック発作を誘発する原因物質として真っ先に指摘されるものとしてはコーヒー(カフェイン)があります。

 私は患者さんから「一日一杯ぐらいのコーヒーでもダメですか?」と尋ねられることがあります。専門書を読むと、一杯でもパニック発作の確率が上がると書いているものも見かけます。パニック発作が頻発している場合はやはり避けた方がよいと思いますが、ほとんど発作がなくなった時期であれば、あえて禁止する必要はないと(個人的には)考えています。

 喘息治療薬、ホルモン剤:この他に注意すべきものとして、喘息治療薬(気管支拡張薬)があります。これはノルアドレナリン性神経伝達を亢進させるので、パニック発作を誘発する可能性があます。また経口避妊薬や子宮内膜炎治療薬として使われるエストロゲン製剤(ホルモン剤)もパニック発作を誘発することがあります。

 その他:禁煙(ニコチンの離脱)やアルコールを絶つことでパニック障害を誘発されるという報告があります。

当クリニックで診ることが多い病気

(お願い)

以下のような精神科の病気は専門外のため扱いません。
統合失調症、躁うつ病、アルコール依存症、てんかん、発達障害など