その他の病気
神経性頻尿(心因性頻尿)
ふだん、しょっちゅうトイレに行くわけではないのに、緊張する場面に限って、ついさきほどトイレを済ませたばかりでも尿意を感じてしまう。そんな病気は心因性頻尿とか神経性頻尿、過敏性膀胱などと呼ばれています。
健康な人でも緊張すると膀胱が縮み、膀胱に溜めておくことができる尿量が減少するので、尿意を感じやすくなります。ですから大事な試験や面接などでは、どんな人でも軽度の心因性頻尿になるといっても良いでしょう。
もっとも、たいていの人は一度か二度、トイレを済ませると落ち着くものです。「シーンとしている場でトイレのため退席するのは恥ずかしい」などと過度に心配したり、緊張しそうな場に出向くことを避けるようなら治療をした方がよいでしょう。
心療内科や精神科でもまずは薬物療法が試みられます。処方される薬としては主に三種類あります。一つは膀胱の筋肉の緊張を緩める薬、これは泌尿器科でも処方されるものです。もう一つは精神の緊張を緩和する坑不安薬。この他に抗うつ剤を使うこともあります。うつ病でもない人に抗うつ剤を処方するのは変だと思うかもしれませんが、抗うつ剤の一部には尿が出にくくなるという副作用があるので、これを逆に利用します。それでも効果が不十分なときは、カウンセリングや行動療法などを行うこともあります。
なお、名前が紛らわしい病気として、泌尿器科の病気である神経因性膀胱があります。尿を蓄えたり、出したりするしくみを支配する神経の中枢は大脳皮質にあって、脊椎を経て、末梢神経となり膀胱や尿道の利尿筋群につながっています。神経因性膀胱はこの神経系のどこかに形態的または機能的病変がおこり、スムーズに排尿や蓄尿できない状態です。
心因性頻尿は神経は正常で腎臓や膀胱に障害をもたらすことはありません。またいつでもトイレに行ける状況では困ることが少ない病気です。
また夜間も頻尿があるようなら、過活動性膀胱、前立腺肥大症、神経因性膀胱、膀胱炎といった泌尿器科の病気や糖尿病などの内科の病気の可能性があります。
吐き気(心因性嘔吐)
心療内科の患者さんが、吐き気(嘔気、悪心)を訴えることはよくあります。吐き気、単独で出現することもありますが、しばしば嘔吐や、顔面蒼白、冷汗、頻脈、下痢といった症状を伴います。
吐き気の原因はさまざま
原因はさまざまで、そのメカニズムもまだ不明な点が多いようです。良く見られる吐き気としては、乗り物酔いや、胃腸など消化器の異常、妊娠、耳鼻科的問題などですが、心臓や脳の障害、薬の副作用などのこともあります。
このように吐き気は心療内科の病気とは限らないので、鑑別が重要です。ストレス因などがないのに突然、嘔吐を伴い出現する場合や、痛みや発熱を伴う場合、食べ物との関連が考えられる場合などは、まずは内科などの身体科を受診した方がよいでしょう。また回転性メマイを伴う場合は、耳鼻科の病気の可能性が高いです。
心療内科でよくみかける吐き気(心因性嘔吐)の特徴
精神的な問題が関係している場合は心因性嘔吐という病名が付くことが多く、嘔吐はなくても吐き気があればこの病名が使われます。
心因性嘔吐は、自律神経失調症(身体表現性障害)や機能性ディスペプシア(FD)の一症状とされることもあります。また吐き気は過食症や対人緊張などでもよく見られます。
心因性嘔吐の吐き気は、緊張する会食など、場面が限定されていたり、午前中だけなど特定の時間帯に偏っていたり、逆に終日症状が続くといったものが多いです。
吐き気の原因を本人が自覚しているとは限りません。。このため吐き気以外の症状の有無や、症状の特徴、吐き気が出やすい状況などから原因を探します。ストレス因があるようなら、その問題にも取り組むことになります(治療の主役はこちらになります)。
吐き気の治療
原因がはっきりしない場合でも、薬物療法は症状軽減に役立ちます。代表的な制吐薬(吐き気止め)としてはプリンペラン(メトクロプラミド)、ナウゼリン(ドンペリドン)があります。これらは消化管の蠕動を促進し、内容物を通過させます。
腹痛を伴うときはブスコパン(ブチルスコポラミン)が試みられます。これは腸管蠕動を抑制して吐き気や嘔吐を軽減させます。食後の吐き気や機能性ディスペプシアにはガスモチン(モサプリド)がよく使われます。
食事と無関係な吐き気や、精神的な原因があるときはドグマチール(スルピリド)やコントミン(クロルプロマジン)が使われます。
五苓散、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、六君子湯などの漢方薬が有効なことも少なくありません。この他、抗ヒスタミン薬や抗不安薬、ガスターなどのH2ブロッカー、タケプロンなどのPPIも使われます。
頭痛
心療内科で良くみかける頭痛のタイプは片頭痛(偏頭痛)と緊張性頭痛、およびこの二つが混ざった混合性頭痛です。
以下、特徴と治療法を紹介します。(参考:2005年 慢性頭痛治療ガイドライン)
片頭痛
片頭痛の特徴
- 頭の片側に起こることが多い。(両側のこともある)
- ズキズキと脈打つ痛み。(ズキズキしないこともある)
- 音や光に敏感になり、吐き気や嘔吐を伴うこともある。
- 月に1~2回、多い時で週に1回程度、繰り返して起こる。
- 頭痛は4~72時間くらい持続して、自然に治る。
- 女性に多く、家族に頭痛持ちの人がいると起こりやすい傾向がある。
- 前兆として、視野が欠けたり、光がチカチカすることがある。
片頭痛の治療薬(痛いときや痛くなりそうなときに服用)
- アセトアミノフェン:カロナールなど
- 非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs):アスピリン、バファリン、ロキソニンなど
- エルゴタミン製剤:クリアミン、ジヒデルゴッドなど
- トリプタン系薬剤:イミグラン、ゾーミック、レルパックス、マクサルト
- 制吐薬
軽度~中等度の頭痛には消炎鎮痛薬(NSAIDs)、中等度~重度の頭痛にはトリプタン系薬剤が推奨されている。いずれも場合も制吐薬の併用は有用。
片頭痛の予防薬
- 降圧剤:β遮断薬(インデラルなど)、カルシウム拮抗薬(テラナスなど)、ACE阻害薬(ロ ンゲス、レニベースなど)、ARB(ブロプレスなど)
- バルプロ酸:デパケン( 抗てんかん薬)
- アミトリプチリン:トフラニール(抗うつ薬)
- 呉茱萸湯
またマグネシウム、ビタミン B2 、フィーバーフュー(ハーブ)なども有効とされてい る。
片頭痛の誘発する因子
精神的因子 : ストレス、精神的緊張、疲れ、睡眠
内因性因子 : 月経周期
環境因子 : 天候の変化、温度差、頻回の旅行
食事性因子 : アルコールなど
なお片頭痛患者では高血圧、心疾患や虚血性脳血管障害、うつ病・パニック障害・不安障害などの心療内科的な病気との関連(合併)が推測されている。
緊張性頭痛
緊張性頭痛の特徴
両側からじわっと締め付けられるような重い痛み。
日本人に最も多いとされる。女性に多い。
原因は、頭の筋肉が緊張とされている。たとえはパソコンでの作業による長時間の不自然な姿勢や、精神的緊張や対人関係などのストレス。
肩こりを伴うことも多い。
緊張性頭痛の治療
片頭痛のような特効薬はない。
- 鎮痛薬、 消炎鎮痛薬(アスピリン、バファリン、ロキソニンなどのNSAIDsなど)
- カフェイン
- 抗うつ薬
- 抗不安薬・筋弛緩薬
また頸部指圧や鍼灸、頭痛体操なども有効。
緊張性頭痛の予防
長時間の同じ姿勢を避ける。
仕事の合間に背伸びや腕回しなどの軽いストレッチで筋肉の緊張をほぐす。
眼鏡が合わないための頭痛はよくある。
ストレスを溜めない工夫。
群発頭痛の特徴(心療内科では扱いません)
偏頭痛や緊張性頭痛に比べて頻度はずっと少ない。
年に一回から数回。片目がえぐられるような激しい痛み。
睡眠中に起こりやすく、 目が充血したり、 涙や鼻水が出ることもある。
20~30代の男性に多い。お酒が誘因になりやすい。
慢性的な痛み(線維筋痛症、慢性疼痛)
何カ月も続く慢性的な痛みのために受診する患者さんをみかけます。その多くは、他の医療施設で血液検査やレントゲン、MRIなどで異常が見つからず、紹介される人です。なかには線維筋痛症や慢性疼痛などの診断がすでに付いている人もいます。ここではこの二つの病名を中心に説明します。
慢性的な痛みのメカニズム(原因)
なぜ痛みがいつまでも続くのかは、まだはっきりわかっていません。ただし、たとえば手が痛いからといって、その手の部位に痛みの原因があるとは限らないようです。これは帯状疱疹(ウイルスが原因で皮膚の部分が痛む)の患者さんで、もともと痛かった部位とは無関係なところに痛みが移動するという現象が実際に生じることや、ネズミを使った実験で痛みの部位が移動することが観察されています。
また慢性的な痛みと、ケガなどによる急性の痛みでは、脳において活性化される部位が違うことも指摘されています。たとえば慢性的な痛みでは、過去の情動記憶に関係する部位の脳活動が亢進するようです。
これに加えて痛みに伴うストレスが慢性化することで、さらに痛みが遷延化するというメカニズムも指摘されています。長期間ストレス状態にいると、脳内のセロトニンやドーパミンが減少するからです。(セロトニンは不安感を減らします。ドーパミンは痛みを中和するエンドルフィンを合成します。)
線維筋痛症と慢性疼痛
線維筋痛症は全身が痛む病気で、中年以降の女性に好発する傾向があります。検査などでは異常が見つかりません。当初はリウマチや膠原病と関係あるという説があったのですがそれは否定され、現時点では原因不明です。
アメリカのリウマチ学会の診断規準では、3 カ月以上、広い範囲で痛みが続き、首や肩、手足などの左右18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に痛みがあると線維筋痛症と診断されます。この他に、疲労・倦怠感、眼や口の乾燥感、不眠や抑うつ気分などの症状を伴うことが多いようです。
ところで、線維筋痛症という病名が生れる以前からあった慢性疼痛とはどう違うのでしょうか。一つには慢性疼痛は線維筋痛症に比べ、痛みの範囲や痛み以外の訴えが少ないようです。このため、広範囲な慢性疼痛に加えて不安や抑うつ、倦怠感などがあれば線維筋痛症とする医師もいます。ただし線維筋痛症という病名自身に疑問を投げかけ、二つの病気に違いは無いと考える研究者も少なくないようです。
どこを受診すればよいのか。どんな治療をするのか
痛みに苦しむ人にとって、診断がどうあれ、治ればそれでいいわけです。では何科目を受診したらよいのでしょうか。近くに線維筋痛症を専門にしている医療機関はないようだし、かといって痛みにはいろんな原因がありそうなので、いきなり心療内科を受診するのも心配、という患者さんが多いようです。
私自身がこの病気になっても同じように迷うでしょう。要するに「先ずは○○科に」と言いにくいのです。現状では神経内科やリウマチ科、ペインクリニック、整形外科、一般内科などを受診することが多いようです。
そこではどんな治療が行われるのでしょうか。受診する科が違っても、治療内容が極端に違うことはないようです。最もよく処方される薬は、神経障害性の痛みに有効とされる薬、リリカでしょう。これに弱い麻薬に分類されるトラムセットや抗うつ剤(トリプタノール、サインバルタ)、抗テンカン薬(ガバペン、デパケン)なども使われます。
こうした治療で改善がみられない場合、心療内科に紹介されることが多いようです。ただ、すでにいろんな治療を試みて効果がない場合、心療内科を受診したからといって直ぐ良くなるというわけにはいきません。紹介してくる先生たちは「何かストレスが原因としてあるのは」という気持があるようですが、患者さんから話を聞いてもストレスになると思われるものが見つからないことも多いというのが実情です。
多汗症(全身性多汗症、手掌多汗症、腋窩多汗症、寝汗)
汗に困って受診する患者さんで代表的な病気を全身性多汗症(全身の汗、寝汗など)と局所性多汗症(手のひら、腋の汗など)に分けて説明します。
全身性多汗症、どんな病気か
全身に汗をかくものです。もともと汗をかくのは代謝が盛んなことの証明でもあるので、それ自体は決して悪いことではないのです。ただ、あまりにひどいと不快だったり日常生活に支障をきたすため治療が必要でしょう。
体質的に汗をかきやすい人は別として、急に汗をかくようになった場合は先ずは甲状腺機能亢進症や糖尿病、更年期障害といった身体の病気を考える必要があります。そうした病気に該当しない場合は、気候の変化や生活の乱れ、ストレス要因なども考慮しながら治療法を検討します。
全身性多汗症の治療薬
胃の薬としても処方されるプロ・パンサインが有効なことが多いのですが、これは発汗を止めるだけなので、体に熱がこもるという弊害や、口が渇いたり便秘するという副作用もあります。
したがって、まずは副作用の少ない漢方薬や自律神経失調症の薬でもあるグランダキシンなどを試みます。またSSRIが効果的な場合もあります。
寝汗(ねあせ、盗汗)
寝汗は全身性多汗症の一つですが、睡眠障害や精神的ストレスでも生じやすく、睡眠障害に対する薬や精神安定剤などで改善することも少なくありません。なおSSRIパキシルなどの副作用でも寝汗が生じることがあります。
掌蹠多汗症(しゅしょう)。どんな病気か
手のひらに汗をかく病気で、その大半の人は足の裏にも汗をかきます(足蹠多汗症(そくせき))。クリニックを受診する患者さんは10台後半~20台前半が多く、「握手するときに困る」「答案用紙が汗で濡れてしまうのが困る」などと訴えます。
健康な人の場合、「手に汗握る」と表現されるように、スポーツ鑑賞などで興奮したとき、手のひらに汗をかくのですが、手掌多汗症の人は精神的な興奮や緊張、不安がなくてもかくことが多いようです。ただし眠っている間は汗をかきません。
掌蹠多汗症の治療
精神的な緊張、不安があるときだけ汗をかく場合は抗不安薬やSSRIが有効です。またプロ・バンサインが有効なこともあります。内服薬が無効な場合は次の順番で試みます。
塩化アルミニウム液の塗布。 具体的は夜寝るとき、布手袋にアルミニウム液を垂らし、その上にゴム手袋をかぶせて朝までそのままにしておく方法です。安価なうえ自宅でできる魅力があります。ただし手がかぶれることがあります。
イオントフォレーシス(通電療法)。原理は水が入った箱に電流を流し、その中に手を20分程度漬けておく治療法です。以前は器具を当クリニックで貸し出しをしていました。そのときの印象では半分ぐらいの人が効果が出ました。なお器具が痛んだり汚れたりしやすいため、現在は治療を希望する人にはネットなどで自分で購入してもらっています。
この他ボトックス注射やETS手術(胸腔鏡下胸部交感神経節切除術)などの方法がありますが、設備などの関係で当科では行っていません。
腋窩多汗症(えきか)。どんな病気か
体温上昇や緊張や不安などで腋(わき)に汗をかくものです。手掌多汗症に準じた治療法を行いますが、多くは手掌多汗症よりも薄い濃度のアルミニウム液を腋に塗ることで改善します。
腋窩多汗症の新薬 エクロック
当クリニックではこれまで腋窩多汗症(わきの下の汗)の治療として、アルミニウム液を塗ることで対応してきました。この方法でも効果はあるのですが、自分でガーゼを用意する必要があることに加え、こぼれた液が手に付きやすいなどの欠点がありました。
この点、エクロックはステック状のアプリケーターに薬液を付けて、それを腋窩(わきの下)に塗るだけなので、使い易くなっています。
なお一日、一回塗る必要がある点はアルミニウム液と同じです。
副作用としては、皮膚炎(6.4%)、紅斑(5.7%)、そう痒感などがありますが、これはアルミニウム液でも見られたものです。
今後、アルミニウム液に代わる腋窩多汗症の治療薬として、エクロックを勧める予定です。
提案。自分のリズムを把握しよう
どんな人でも、その人なりのリズムがあります。
睡眠を例にとりましょう。睡眠時間は個人差が大きく、8時間以上寝ないと日中の調子が悪いという人から、睡眠は3~4時間で十分という人までいます。また朝、目覚めた後も何となくボーッとしてしまい元気が出ない人から、目覚めた直後から心身ともすっきりという人もいます。
患者さんの中には「私は何時間寝たらいいでしょうか」と尋ねてくる人がいますがこれは他人に質問して答えが得られるような問題ではありません。「自分は何時間ぐらい寝たときが一番調子が良かったのか」と自分自身に尋ねるべきでしょう。
睡眠以外の生活リズムもあります。深夜の方が活気が出る人、朝の方が集中できる人などがいます。
「忙しい、せわしない」と感じる程度も個人差があります。たとえば一つずつキチンと物事をこなすのが好きな人は、「適当にやってほしい」とか「ついでにこれも」という曖昧な依頼に対してはストレスと感じやすいようです。またいつも何かしていないと落ち着かず、暇な状態が苦手という人や、ふだんはのんびりしていて必要なときだけ一気にやるのが合っているという人もいます。
自分本来のリムズで生活できない時期が続くと、疲労感やイライラ、抑うつ気分などを招きやすくなります。
したがってまず自分自身を振り返ってみて、自分にはどんなリズムが合っているのかを検討することが大切でしょう。もっとも、それが分かっても仕事や家庭の事情で、自分に合ったリズムの生活ができない人もいます。そんな人でも体力や気力が十分あるうちはさほど問題にならないようです。しかし体調不良を自覚することが多くなるようなら、短期間でも構いませんから自分に合うリズムで生活すると、健康な状態に戻りやすくなります。
こんなときどうするか
食欲がない、どうすればいいか
「食欲がない。病院の検査では異常なしと言われたが、良くならない。どうすればいいか」という質問を受けることがある。
こうした質問をする人たちが一番心配するのは「癌など悪性の病気を検査で見落と しているのでは?」という点である。検査の見落としや誤診の可能性は皆無ではないが、とりあえず以下の三点を検討してほしい。
一つ目は、食欲不振と消化不良との区別である。「食べたくはないけど、食べてしまうと一応消化はされている」というのは食欲不振で消化不良ではない。「お腹は空くけど食べたくない」というのも食欲不振で、消化不良ではない可能性が高い。一方「たくさん食べたわけでもないのに、食べた昼ごはんがいつまでもお腹に残り、夕食どきになってもお腹が空かない」というのは消化不良である。
二つ目は、食欲不振がいつもあるのか、それとも時間や日によって違うのか、である。たとえばうつ病は朝は食欲がなく、夜は改善する傾向がある。またストレスなどが原因の場合は、日によって食欲が出るときもあるなど、変化しやすい。
三つ目はストレスなど精神的に思い当たるふしがあるか、である。家族が事故や病気で心配というときに食欲不振になったとしても不思議ではない。
以上の三点を検討し、原因となりそうなストレスも思いつかず、食欲不振と消化不良が常に変わらず続くようなら、体の異常の有無をもう一度検討する必要がある。ただし、病院を変えて他の病院で同じような検査をするよりは、検査をした元の病院に行き自分の体調についてもう一度話すことをお勧めしたい。
なぜ他の病院より元の病院を勧めるかについて一応述べておく。体の病気の場合、医師は患者さんが訴える症状を聞き診察をすることで、いくつかの病気を想定して検査を組み立てる。つまり、検査をするより前の時点で、すでに病気をある程度絞ってから検査計画を立てる。その検査は比較的頻度が高く、しかも悪性度が高い病気を念頭においたものとなる。この結果、頻度が低いもの、症状としては典型的でないものは検査をしていないことになる。
ただこれを誤診や見逃しだと決めつけるのは酷だと思う。受診する全ての患者にあらゆる病気を想定して体の隅々まで検査するというのは現実的ではないからだ。検査をした元の病院で「なかなかよくならない」と伝えることは、それ自体が診断のための新た情報となるので、改めて他の病気の想定したり、次の検査をどうするかの検討が可能となる。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その1)
─やりたくない気分がいつまでも続くパターンはさまざま
何もやりたくないという気分に襲われ、それがいつまでも続く。そんなときはどうしたらいいのでしょうか?
そんな気分になってしまう誘因やパターンは人によってさまざまです。うつ病などの病気によるものや、元々そんな気分になりやすい人もいます。もちろん健康な人でもなります。それはたとえば大きな仕事が一段落したとき、さんざん努力してみたが結果が思わしくないとき、離別や死別などの場合です。
やりたくない気分になる理由はさまざまなので、対処法も一つではありません。幸いなことに、たいていは一定期間が経つと自然に良くなりますし、また自分なりの対処法を身に付けていることが多いようです。ここでは、自分ではやる気が出ない原因が掴めず、しかも数週間以上たってもなかなか改善しない場合を取り上げましょう。例えば次のような例です。
【主婦のAさん】とにかく何をする気にもならないのです。もうそうなってから長いのです。ですから家のなかはゴミ屋敷。台所も汚れたままの食器がたまっている。それを見るだけで、これを元に戻すのかと思うと、ますます気が重くなるのです。
【学生のBさん】十分寝ても朝からかったるい。元気にならなきゃあ、とは思うのですが,その一方で、もし元気になっても、何していいか思いつきそうもない。そうと考えると、変なんですけど元気になるのもイヤなんです。
【サラリーマンのCさん】そろそろ働かなきゃあとは思うのですが、職場に戻っても辛いだけ。そう考えるだけで、投げやりな気持になってしまう。
この例でわかるように、長期間、何もしたくないという状態から抜けだせない人のなかには、良くなった後の展望が見つからないという例を良く見かけます。確かにこれでは良くなれませんね。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その2)
─森田療法。絶対臥褥
森田療法という言葉を聞いたことがありますか? これは大正時代に日本で生まれた精神療法です。この入院療法として絶対臥褥(がじょく)という治療があります。これは入院したら、先ず食事や洗面、トイレ以外はひたすら布団に横になっているというものです。
憔悴しきって入院する患者さんにとって、これほどたやすい治療はないと思ってしまうのですが、やがて何もしていないのが苦痛に感じるようになります。森田療法ではそう感じるようになる時期を狙って、次の治療段階に進みます。その内容は、病室の掃除や庭の手入れなどの簡単な作業です。
躁状態や統合失調症の場合はちょっと事情が違いますが、一般的に状態が悪いと、人は「何もしたくない」という気持になり、じっとしていることを選びます。しかしじっとしていると、体の疲れが取れ、身体疾患が重篤でない限り、今度はじっとしている状態が苦痛に感じるようになり何かしたくなってくるものです。森田療法では、人間というものは元々そういう風にできている、と考えていて、そうした人間の持つ特性をうまく活用しているのです。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その3)
─元気になれない原因を取り除く
森田療法を知らなくても「いつまでも何もしないでいると苦痛になる」という元々人が持っている特性を活用することは可能です。それは「何もしたくない」という気持が募ってきたときはつい「これではいけない。なんとかしなければ」と焦ったりするものですが、先ずは「何もしたくない」という気持にそのまま自分を委ねてみるのです。これがステップ1です。
これだけだと「今までだって、何もしたくない状態が続いていた。これでは何も変わらない」という批判が出そうです。では森田療法の場合は、なぜこの状態から抜けだせるのでしょうか。もちろん主治医などの指導者がいるからですが、他にも理由があります。それは入院中なので当然なのですが、何もしないでいるのが苦痛な状態になった後に行う作業を、掃除や庭の手入れといった、退院後の自分の課題とは無関係のことから始めるという点です。
この応用がステップ2です。つまりやる気が出た後、Aさんのように「片づけをやるのが大変」と悩んだり、Bさんのように「今後のやるべきことを探す」ことを強いられたり、Cさんのように「辛い職場に戻る」といった自分の課題には直結しないことを行う工夫をするのです。
つまり本来やるべき事とは無関係のこと、またはそのとき思い付いたその場限りのことを、それも試しにちょっとだけという気持で実行するのです。具体的に何をやるかは人さまざまなので答えはありません。一応例を挙げておくと、女性なら化粧やおしゃれ、旧友への電話、DVD鑑賞など。男性ならゲーム、ネット、車いじりといったものでしょうか。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その4)
─この方法のまとめ
この方法の基本は、次のような三つのステップの方法です。なおステップ3は後ほど説明します。
【何もやりたくないという気持が募って抜け出せないとき】
ステップ1 やりたくないときは無理して「なんとかしよう」と思わず、逆にやらない状態を維持してみる。
→やがて、何かをやりたくなってしまう。
ステップ2 本来やるべき事とは無関係のことや、そのときたまたま思いついたことをやる。
→何かをやったということだけで、少し気持が軽くなる
ステップ3 自分の感覚を確かめてみる。
その後も、しばらくこの気晴らし行為を続けてみるのです。これだけで問題解決になるとは限りませんが、まずは「何もしたくない」という状態から抜けだすことを優先しましょう。
このやり方は、誰がやっても有効ですが、中等度以上のうつ病の人などは、これだけでは不十分です。服薬などの治療を勧めます。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その5)
─依存症になる可能性は?
ところで「これはただの現実逃避ではないか」という指摘もあると思います。その通りかも知れませんが、先ずは自分が身軽に動けるようにならないと、何も始まらないと私は考えます。
また「これだと依存症にならないか」という指摘もあると思います。アルコール依存症、買い物依存症、そして摂食障害などは、嫌なことから逃れるための気晴らし行為として始まる場合も多いので、これも間違いではないと思います。
なにしろ「人は何時までも何もしないでいると苦痛になり、何かをしたくなる」と述べたのですが、依存症の人はすでに依存行為という「何か」をしているわけですから、別の解決法が必要になります。
ちなみに私は、何もしたくない気分が続く場合と依存症とでは、「しない」と「し過ぎる」という正反対の現象なのですが、実は似ていると思っています。それというのも「何もしたくない」場合と同じように、依存症の人も「依存行為をやめたら、その後どうするか」といった不安を持っているからです。
ただし依存症は、普通の気晴らし行為の単なる延長とは異なり、何もやりたくないと感じる人が、何かを始めるとそのまま依存症に移行するわけはありません。
何もやりたくない気分のとき、どうするか?(その6)
─依存症という罠
依存症に陥ると、家族は何とかして依存行為を止めさせようとします。また本人もそれに応じようと試みます。依存行為がなくなれば依存症ではなくなるので、「依存行為をしたのか、しなかったのか」という点に注意関心が集まってしまうのはしかたがないと思います。
私は依存症の専門家ではありませんが、私は依存行為自体もさることながら、これに加えて依存症の人が依存行為の後に、自分を責める気持や後悔などさまざまな不快な感じを味わっているということ(特徴)をもっと重視すべきだと考えます。
つまり依存症の場合、たとえばお酒を飲んだ翌日,「ああ昨日は楽しかったな」と心から思ったり,あるいは買い物をした後で「これを買ってよかった」と感じることがあまりないという特徴です。
これは先程の話に戻ると、こういうことです。つまり何もしたくないとき「そのとき思いついた何かをやってみる」という行為が依存症の入口となるかどうかは,その行為をやった後どんな感じが残るかで、判定可能というわけです。
お酒、ギャンブル,買物などは快感を伴います、しかし依存症の人はもっと強い刺激を求めたり、新たな依存行為をしないではいられなくなります。これは充実感や爽快感とは異質のものです。
気晴らし行為はあくまで気晴らし行為でしかないのですが、多少なりとも充実感や爽快感といった快い感じを伴う限り,とりあえずはこのまま続けも良いのではないでしょうか。
これがステップ3です。つまり「そのとき思いついた何かをやってみる」という行為をやった後での、自分の感覚を確かめてみる。それが心地よい感覚である限り、その行為を続けてみる。
このような、心地よい感覚や充実感が、次のもっと豊かな自分らしい次の人生のステップを見つける手がかりになるのではないでしょうか。もちろん、ここから先は人によって試練の道になる可能性はあります。しかし、先ずはこの地点に立って「失敗を恐れず、試行錯誤になってもいいのだ」という気持で臨んでほしいですね。
当クリニックで診ることが多い病気
- 自律神経失調症、身体表現性障害、身体症状性障害
- 〔主な症状〕 めまい、肩凝り、慢性疲労、頭痛、吐き気、更年期症状、動悸など
- うつ病,うつ状態
- 〔主な症状〕 不眠、無気力、意欲減退、食欲不振など
- 過敏性腸症候群(IBS 下痢型、交代型、ガス型)、呑気症
- 〔主な症状〕 腹痛、下痢、便秘、ガス(おなら)、呑気など
- パニック障害、不安障害、空間恐怖
- 〔主な症状〕 動悸、胸痛、息苦しさ、不安など
- 摂食障害(過食症、拒食症
- 〔主な症状〕 低体重、過食、嘔吐など
- その他の病気
- 不眠症、頭痛、線維筋痛症,慢性疼痛、
多汗症、頻尿(神経性頻尿、心因性頻尿)、自臭症、書痙、斜頸、
適応障害、対人緊張(社会不安障害)、人間関係などのストレス、
(お願い)
以下のような精神科の病気は専門外のため扱いません。
統合失調症、躁うつ病、アルコール依存症、てんかん、発達障害など