不眠症
入眠困難
不眠症にはいくつかのタイプに分けられます。
それは寝付きが悪い入眠困難と、夜中に目覚める中途覚醒、朝早く目がさめてしまう早朝覚醒があり、この他「寝た気がしない」などと感じる熟眠障害です。
まず入眠困難の話をしましょう。
よくみかけるのは、寝ようとするときに日頃の悩みや昼間の出来事などをついつい考えて眠れない人です。
また寝る時間や起きる時間がまちまちで睡眠リズムが乱れている人や、寝つけないことが癖のようになっている人もいます。
治療法としては入眠剤を使うのが一般的です。
入眠剤としてはマイスリーやハルシオンなどが有名です。
これらは服用して30分程度で効果が出ます。
また持続時間が短いため、朝に眠気が残りにくいという長所があります。
ただし入眠剤は使い方に注意する必要があります。
入眠剤を服用した後、「眠くなってから布団に入ろう」などと考えていつまでも起きている人がいます。
しかしその場合、途中で記憶を失くし、たとえば「どうも友達に電話したようだが、自分としては記憶がない」とか「夜中に冷蔵庫を開けて何か食べたようだが覚えていない」といったトラブルにつながることがあります。
また効果が不十分だとして薬を飲み足したりするといつの間にか量が増え、依存症につながる危険もあります。
さらにアルコールとの併用は記憶障害や節度のない行動を取ってしまう可能性があります。
このため入眠剤を服用するときは、薬がどんどん増えないような注意が必要です。
中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害
夜中に目覚めてしまう中途覚醒や、朝早く目覚めてしまう早朝覚醒に対してはどうしたらいいでしょうか。
これに対しては作用時間が長めの睡眠薬を服用すると改善することが多いのですが、いくつかの注意点があります。
一つはうつ病の症状としての不眠です。
うつ病の睡眠障害で多いのは入眠困難よりもこのタイプです。
この場合はうつ病の治療を優先する必要があります。
また睡眠時無呼吸症候群などの場合にみられる不眠もこのタイプです。
「睡眠はとっているはずなのに昼間眠い」と感じる人はこの可能性があります。
診断には睡眠中の脳波(ポリグラフ)検査などが必要ですが、ふだん同室で寝ている家族が「いびきがひどい」「寝ている間息をしていないようだ」などの証言があればこの病気が強く疑われます。
この他に、体の冷えや尿意、布団が重い、周囲の騒音や明るさなどの問題のため夜中に目覚める人も少なくありません。
また内科的な病気やレム睡眠行動障害などの可能性もあります。
これらは眠剤を試みるよりは原因の解消が必要です。
なお高齢者などは若い頃よりも睡眠時間が短くなり、朝早く目覚める傾向があります。
これは生理的現象なので、昼間の眠気がないなら睡眠薬などで無理に睡眠時間を長くする必要はないでしょう。
睡眠薬の種類(メカニズムと作用時間による分類)
睡眠薬は、メカニズムの違いと、作用時間によって以下のように分類されます。
非ベンゾジアゼピン系
超短時間型
マイスリ―、アモバン、ルネスタ
ベンゾジアゼピン系
超短時間型
ハルシオン
短時間型
レンドルミン、エバミール、リスミー、デパス
中間型
サイレース、ユーロジン、ベンザリン
長時間型
ドラール
- メラトニン受容体作動薬:ロゼレム
- オレキシン受容体拮抗薬:ベルソムラ、デエビゴ
- バルビツール酸系:ラボナ、イソミタール
このうち、もっとも古くからあるのはバルビツール酸系で、1920年代~1950年代半ばまでは、実質的に唯一の睡眠薬でした。
しかし安全性や依存性の問題から、現在ではあまり使われません。
代わって1960年代にベンゾジアゼピン系が登場し、現在も使われています。
バルビツール酸系に比べると安全なのですが、適切に使用しないと依存性などの弊害が生じます。
非ベンゾジアゼピン系は、ベンゾジアゼピン系と化学構造は異なりますが作用や副作用は似ています。
ベンゾジアゼピン系に比べ、抗不安作用が少なく、依存や離脱症状も少ないという特徴があります。
近年では自然の眠りに近いとされる薬としてメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬も発売されています。
メラトニン受容体作動薬のロゼレムは、体内時計のリズムを司るメラトニンの分泌を促します。
オレキシン受容体拮抗薬のベルソムラやデエビゴは、私たちを覚醒状態にしているオレキシンの働きをブロックすることで、睡眠状態に導く薬です。
これらは依存しにくいという魅力があるのですが、効果が弱かったり個人差が大きいという欠点もあります。
この他、睡眠を深くする目的で、リフレックス、トリプタノール、テトラミド、レスリンなどの抗うつ剤や、セロクエル、リスパダールなどの向精神薬などが使われることもあります。
睡眠薬を使わない不眠対策
不眠に困っている人で「睡眠薬を使わないで、不眠を改善できないか」または「今、服用している睡眠薬を減せないか」などと考える人がいます。
そう考えることには私も賛成です。
そこで、まず一般的に、睡眠を改善するとされる方法を紹介します。
次に寝付きが悪いタイプと、夜中や朝早く目覚めて困るタイプの二つに分けて紹介します。
とくに慢性的に不眠に悩む人はぜひ参考にしてください。
その1 不眠に悩む全ての人に対して
毎日を規則正しく
睡眠スケジュールを守る
平日も週末も同じ時間に寝起きする
昼寝を避ける
30分以上の昼寝や、夕食後の仮眠は夜の睡眠に悪影響
寝る前も毎日同じ行動
寝る前の行動を毎日同じに
- 体に「眠る時間だ」と知らせる効用
- 入浴後30~60分後に布団に入るのが理想
- 寝る前のストレッチや読書、深呼吸なども有効
- 寝る1時間前にはスマホやテレビを避ける
食事に注意を払う
寝る前の飲食は避ける
- 重い夕食は消化に負担をかけ、睡眠を妨げます
- 寝る前のカフェインやアルコールを控える
日中の活動に注意
日光を浴びる
朝の日光が夜の眠気を促進、という研究報告あり
適度な運動
日中の運動は夜の睡眠改善につながる
睡眠環境を整える
寝る部屋は静かで暗い方がよい
室内は適切な温度に保つ
18~22℃程度が理想的
快適な寝具を使用
自分に合う枕やマット
その2 特に入眠困難の人に対して
寝る前の準備
寝る前の、体を緩める運動は入眠に有効
風呂から出て30分-60分後に布団に入るのが理想
- 寝る前には考え事をしない習慣を作る
- 寝ようと焦ると逆に緊張して眠れない
- 「目を閉じ横になっているだけでもいい」という態度で臨む
体内時計を整える
眠れなくても、できる限り決まった時間に就寝、起床をする
入眠に適した環境作り
部屋を暗くする
できれば寝る1時間前から。メラトニンの分泌を促します
スマホは寝る1時間前までに
ブルーライトはメラトニン分泌を抑制
- 寝る2~3時間前に食事を終える
- コーヒなどのカフェイン類はできれば夕方までに
悩みや考え事で眠れない人に
悩み事があると、布団の中でもついあれこれ思い巡らせてしまい、やがて頭が冴えてきて「これでは翌日の仕事に差し支えてしまう。
考えるを止めて寝ようと決意するけど、やはり考えてしまう」といった例はよくあります。
そんなときには「人は同時に二つのことを考えるのが困難」という原則を応用しましょう。
具体的には軽い本を寝る前に読むとか、布団の中で悩み以外のことを考えるなどです。
これは要するに「考えるのを止めるのではなく、他のことを考えることで結果として、もともと考えていたことから注意を逸らす」方法です。
なお昔からある「羊が一匹、羊が二匹・・・」と羊を数える方法も同じ原理を応用したものです。
ただしやってみればわかると思いますが、単純なことを考え続けるのは意外と難しく、試みる価値はありますが誰でも成功する方法ではありません。
入眠を促すリラクゼーション法
ユーチューブなどで「入眠を促すリラクゼーション法」が沢山紹介されています。
自分に合うものを毎日実行しましょう。
私自身もかつて入眠困難に悩み、いろんな方法を試しました。
個人的には自律訓練法と坐禅の数息観が有効だったので、紹介します。(これもユーチューブにあります)
自律訓練法
自律訓練法は第六公式までありますが、入眠対策には以下の三つで十分。
ベッドで横になった状態で始めましょう。
第二公式の状態、つまり手足の重感や温感を感じたままでいると、いつの間にか眠ってしまうようになります。
自律訓練法の習得期間は、早い人ならその日、遅い人だと2週間程度です。
- 背景公式:気持が落ち着いている
- 第一公式:手足の重感を感じる
- 第二公式:手足の温感を感じる
坐禅(数息観)
本格的に坐禅を実践するには正しい姿勢が必須ですが、入眠目的だけなら楽な姿勢でも十分有効です。
目は閉じるか半眼にして、ゆっくり息を吐きながら、一つ(ひとつ)と数えます。
そのあと息を吸い、再び息を吐くとき二つ(ふたつ)、・・と数え、十(とう)まで数えるとまた、一つ(ひとつ)に戻ります。
これをやっていると、自分が数えるべき数が分からなくなる事態がしばしば起きます。
そんなときは気にせず、また一つ(ひとつ)から始めてください。
そのうち、数えているつもりでも、うたた寝している自分に気づきます。
そうなったら、ベッドに入りましょう。
入眠方法として坐禅の数息観が活用可能になるまでの期間は、数日~一ヶ月程度でしょうか。
その他に、私はやったことがないですが、以下のような方法もあります。
呼吸法
ゆっくり呼吸をする方法で、いくつかの方法があります
イメージトレーニング
心地よい風景や思い出を頭の中で描ききます。
マインドフルネス
その3 特に夜中や早朝に目覚める人に対して
夜中や早朝に目覚めるケースは入眠困難に比べると「こうしたら良くなる」というポイントが不明確な場合が多いようです。
このためまずは〔その1 不眠に悩む全ての人に対して〕を参考にして生活全体を見直してください。
ここではそれ以外のことを述べておきます。
夜中に目が覚めたときの対処法
時計を見ない
「まだ○時だ」などの焦りでさらに目が覚めてしまいがち
一度ベッドから離れる
なかなか再入眠できないようなら、いったん起きて読書やリラックス法を短時間行い、眠気を感じたら再びベッドに戻りましょう。
夜中に目覚める原因を検討
コーヒやお茶などのカフェイン類は夜中に目覚める原因になります。
お酒も、夜中に酔いが醒めるので、目覚める原因になります。
室内が寒いと膀胱が収縮して尿意で目覚めます。
病気の可能性も検討
うつ病や睡眠時無呼吸症候群なども夜中の目覚めの原因になります。
糖尿病や前立腺肥大も尿意で目覚めやすくなります。
足ムズムズ症候群も、足の不快感のため睡眠を妨げます。
当クリニックで診ることが多い病気
- 自律神経失調症、身体表現性障害、身体症状性障害
- うつ病,うつ状態
- 〔主な症状〕 不眠、無気力、意欲減退、食欲不振など
- 過敏性腸症候群(IBS 下痢型、交代型、ガス型)、呑気症
- 〔主な症状〕 腹痛、下痢、便秘、ガス(おなら)、呑気など
- パニック障害、不安障害、空間恐怖
- 〔主な症状〕 動悸、胸痛、息苦しさ、不安など
- 摂食障害(過食症、拒食症)
- 〔主な症状〕 低体重、過食、嘔吐など
- その他の病気
お願い
以下のような精神科の病気は専門外のため扱いません。
統合失調症、躁うつ病、アルコール依存症、てんかん、発達障害など