自律神経失調症、身体表現性障害、身体症状性障害|埼玉県さいたま市大宮区 心療内科|心と体のクリニック


自律神経失調症、身体表現性障害、身体症状性障害

 自律神経失調症は心療内科の代表的な病名として一般には知られているのに、医学専門書には自律神経失調症という言葉すら載っていなかったりします。どうしてこんな変なことになっているのでしょうか?
自律神経失調症とは何かというと、「検査をしても異常がないのに、自律神経系のさまざまな症状を訴える状態」です。この病名の欠点は、自律神経機能を正確に計測する方法が現時点ではないので、検査所見を示して「あなたは自律神経失調症です」と説明しにくいことがあります。また自律神経失調症とされる症状の全てが自律神経の失調とも考えにくいのが実情でしょう。
さらに悪いことには「よくわからないから」とか「とりあえず何か病名を付けておこう」といった理由で安易に使う人(医師)もいる。そんな事情があるので医学専門書で無視されるという事態が生じていると考えられます。
それでも自律神経失調症という病名が使われるのはそれなりの理由があります。一つにはこれに代わる適当な病名がないからです。たとえば、うつ病やパニック障害でよく使われるアメリカ精神医学協会によるDSM分類は、こと自律神経失調症に相当する症状に対しては十分整備されておらず、診断名としては使いにくいのです。
もちろんDSM分類においても自律神経失調症に該当する診断名はあります。たと えば身体表現性障害の一部に分類される「身体化障害」という病名がありますが、この診断を下すためには「三○歳未満にはじまり、痛み、胃腸症状、性的症状などが数年間続く」などの条件を満たす必要があります。三○歳を過ぎて症状が始まった人にはこの病名が付けられないし、いくつかの症状が揃わないと除外されるため、自律神経失調症の患者さんで身体化障害の診断基準を満たす人は少数にとどまります。
ではDSM分類で診断すると大半の自律神経失調症の患者さんはどんな病名になるかというと「鑑別不能型身体表現性障害」や「その他の身体表現性障害」といったものになります。「あなたは鑑別不能型身体表現性障害です」とか「その他の身体表現性障害です」と言われたら、患者さんも困ると思います。こうした事情も自律神経失調症という病名を捨て難くさせているのでしょう。(ちなみに2013年5月にDSM分類の改定があり自閉症などの項目が変更になっていますが、自律神経失調症関連の病気に関しては大きな変更はないようです。)
ところで私自身も自律神経失調症という病名を使うことはよくありすが、それは自律神経失調症という病名が広く知られているので患者さんに説明しやすいという消極的理由からです。今後は、もう少し実用的な病名ができることを私も望んでいます。

自律神経失調症の症状

以下に自律神経失調症の症状とされるものを挙げておきます。

〔頭〕 頭痛、頭重感、のぼせ
〔目、耳、口〕 疲れ目、耳鳴り、口渇 
〔喉〕 詰まり感、違和感
〔呼吸〕 息苦しさ、酸欠感
〔心臓・血管系〕 胸痛、胸部違和感、動悸、立ちくらみ
〔消化器〕 食思不振、吐き気、腹部膨満感、便秘、下痢
〔泌尿、生殖器〕 頻尿、残尿感、生理不順、陰部の痒み、インポテンツ
〔筋肉、関節、皮膚〕 肩こり、脱力感、多汗、無汗、皮膚の乾燥
〔手足〕 しびれ、冷え、だるさ

自律神経失調症

自律神経失調症は専門書にない病名

自 〔全身症状〕 不眠、疲労感、めまい、微熱、フラフラ感、ほてり
〔精神症状〕 不安感、イライラ、集中力低下、意欲低下、記憶力減退

 


身体症状性障害

「身体症状性障害」とは

2013年5月にアメリカ精神医学会作成「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版」が出版され、2014年に邦訳もでました。これは、その前のバージョンDSM-Ⅳ-TRが2000年ですから13年ぶりの改定です。
 心療内科と直接関係しそうな話に限定しますと,一番の変更点はこれまで身体表現性障害という大分類が、大幅に変更になり主に身体症状関連障害になったことです。 といっても、何のことか分かりにくいですね。当クリニックではめまいや肩こり、だるさ、頭痛などの症状で受診する患者さんに自律神経失調症とか身体表現性障害という診断を付けることが多いのが現状です。
ただこの診断名はどちらも難があります。まず自律神経失調症という名前は主に日本だけで通用する病名です。また実際に自律神経が失調しているかどうかは不明だという問題点もあります。
しかし身体表現性障害という診断名も適当ではないのです。というのは、DSM-Ⅳでは、自律神経失調症に相当する病名は厳密には鑑別不能型身体表現性障害という変な診断名になってしまうからです。
 今回新しく「身体症状性障害」という診断名が生れましたが、これは当クリニックで使用している自律神経失調症や身体表現性障害とほぼ同じものです。この二つの診断名よりは「よりまし」だと思いますが、まだ馴染みがない病名なので、私は当分は従来通りの診断名を使う予定です。

 一応以下に主な診断規準を挙げておきます。

身体症状性障害(Somatic Symptom Disorder)のDSM-5の診断基準
A.身体症状が苦しく、日常生活の著しい妨げとなっている
B.次の身体症状や健康上の関心に関する過剰な考えや感情、行動
 1.症状の重症度に関する不適切で持続的な考え
 2.健康や症状に関する持続的な強度の不安
 3.過度の時間と労力をこのような症状や健康上の関心に費やす
C.どの身体症状も連続的ではないが、身体症状の出現状況は持続性である
   (典型的には6ヶ月以上)

 


冷え

冷え (その1)西洋医学で軽視される冷え

 冷えとは、手足や腰などがいつも冷たく感じる症状、または体質をいいます。冷えは自覚的なものなので、他の人が触っても冷たいとは限りません。また冷えは寒さとは違い、体の中に入り込んだ冷たさをいうので、夏でも冷えはあります。  冷えは代謝を悪くするため、疲れやこわばりの原因にもなります。
 おもしろいことに冷えに相当する適切な英語はありません。しかし英語圏の人にも冷えで困っている人はいるようです。西洋医学でも「冷え」という病名はなく、循環不全や代謝の低下に伴う一つの現象といった説明がされることがあっても、あまり注目されないようです。
 一方、東洋医学では冷えは重要な概念です。東洋医学では体を構成しているものを気・血・水の三要素で捉えます。気は活動を支えるエネルギー、血は血液、水は体液の流れに相当します。
冷え性は気・血・水の不足または滞りの状態(虚証、気虚、血虚、瘀血)とされています。
 女性に多いのは体の上半身がのぼせて、下半身が冷える現象ですが、これを東洋医学では、もともと体の上部は陽、下部は陰となる性質があって、この交流がうまく行かなくなっている状態だと解釈します。

冷え (その2)冷えは自律神経失調症の症状の一つ

 さて心療内科ではどうでしょうか。
冷えの原因は複数あり、不明な点が多いのが現状ですが、心療内科では冷えは自律神経失調症の一つの症状として扱ってきた経緯もあり「冷えで困っている」と訴える患者さんは少なくありません。また患者さんにとっては「少しでも症状を軽くしたい」というのがホンネでしょう。
事故や不幸な出来事、試験会場など、不安になったり緊張する場面で手足が冷たくなった体験を持つ人はいると思いますが、これは自律神経の一つである交感神経の興奮が原因です。またストレスや不眠、疲労などでも冷えは生じます。
女性に多いのが体質的な冷えで、このうち半数以上の人が月経前症候群や生理不順を伴っている印象です。
 では心療内科ではどんな治療を行うのでしょうか。不安、緊張、ストレス、不眠などが原因の人は、まずは不安や緊張、不眠などの改善を優先します。そうすることで冷えも改善することが多いからです。
他の症状が改善しても冷えが残る場合や体質的に冷えが困っている人の場合は以下に述べるような薬物療法や自律訓練法の他、自分で試せる冷え対策を勧めます。
1)薬物療法
 ビタミンE(ユベラ):冷えに有効な薬として、ビタミンE(ユベラ)があります。これは霜焼けの治療にも使われますが、血液が血管をスムーズに通り易くする効果があります。
漢方薬:冷えには漢方薬が効果的な場合が少なくありません。具体的には八味地黄丸、人参湯、温経湯、当帰杓薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸、苓桂朮甘湯などでしょう。
2)自律訓練法
自律訓練法は、自己暗示によって手足の重たい感や温かい感じを誘導する方法です。入眠困難、過敏性腸症候群など、心療内科の病気全般に有効ですが、とりわけ冷えは効果が実感できると思います。
 自律訓練法は、以前はどこの心療内科でも行われていたのですが、最近は廃れ気味です。その理由は効果がないからではなく、面倒なからのようです。私は患者さんだけでなく、医学生や一般の人にも教えていたことがあります。
大半の人は一、二回指導するだけで、手足が重くなったり、温かくなったりする体験ができるのですが、その後続ける人は意外なほど少ないのです。毎日たった5分ぐらいの練習で十分なのですが・・・。

冷え (その3)自分でできる冷え対策

 冷えは薬などを使わないでも改善できます。ポイントは「緩める(ゆるめる)」と「温める」です。不安や緊張、ストレスは冷えの原因になります。緩めることは、冷え改善だけでなく、元々のその原因にも好影響を与えます。
そして微温でゆっくり温めることは冷えを改善させるだけでなく、緩めることも促進します。その方法は沢山あり、そのうち自分に合ったものを選べばよいと思いますが、手軽にできるものとして以下をお勧めします。
1)お湯で温める
  温める方法で一番手軽なのはお風呂でしょう。ただしシャワーでは体の芯まで温まりません。湯船に普段より低めの温度でゆったり浸かりましょう。
湯船でゆったりできない人へのお勧めは足湯です。両足を40℃くらいのお湯に20分程度、浸すのです。容器は足湯器(フットバス)がなければバケツや洗面器でも構いません。
2)足指の運動
足指や足首を回したり刺激することも冷え対策になります。お勧めは、足指を思いつくまま動かす方法です。これをやると血流が盛んになるし、足指付近の筋肉も温かくなります。
ところでこの方法を数分続けると、自分が足指を動かしているというよりは、足指が勝手に動いているという感覚に変わることがあります。ぜひ、この「指が勝手に動いている」という感覚を楽しんでください。
意図的にやると、どうしても無理に動かすため、「緩める」という原則に反してしまいがちですが、勝手に動く感覚を大事にすると「温める」と「緩める」が両立します。
3)食べ物
地下にできる根菜類、たとえば人参、ゴボウ、レンコン、いも類などは温める力が備わっているとされています。またショウガは温める食物として有名です。
       

 


めまい

プロでも難しいめまいの原因や診断

めまいをネットや本で調べようとして「調べたけどかえって分からなくなった」という感想を持った人も多いと思います。専門家でも「めまいの原因や診断は難しい」というほどですから、それも当然です。
そこでここでは以下のようなざっくりとした話に限定します。
・すぐに病院に行くべきめまい
・症状によるめまいの区別
・自律神経失調症(浮遊性めまい)の治療
 

すぐに病院に行くべきめまい

1)脳梗塞や脳出血の場合
急ぐのは脳梗塞や脳出血の可能性がある場合です。ポイントは、めまいの性状ではなく、めまい以外にどんな症状があるかということです。めまい以外の症状がない場合は脳梗塞や脳出血の可能性は少ないのです。心配なのは「ろれつが回らない」「物が二重に見える」「手足がしびれたり、力が入らない」「立ったり歩こうとすると片方によろける」などの場合です。すぐに救急外来や脳神経外科を受診しましょう。
2)後遺症が残る可能性がある場合
 突発性難聴など、難聴を伴うめまいは放置すると聴力が戻らない危険があります。なるべく早く耳鼻科を受診しましょう。

症状によるめまいの区別

1)回転性めまい──耳鼻科の病気です。
「グルグル回る」感じのめまいの大半は、耳が原因で起こる良性のめまいで命の危機に直結することは少ないです。代表的な病気としては良性発作性頭位めまい症、メニエール病、めまいを伴う突発性難聴、椎骨脳底動脈循環不全、前庭神経炎などで、何れも耳鼻科の病気です。
2)立ちくらみ──まずは内科で相談。
立ち上がるとクラッとしたり、目の前が暗くなったりは、血圧の変動によるもので、厳密にはめまいとは呼べないものです。低血圧(起立性低血圧)や貧血、不整脈などが原因のことが多いので先ずは内科や循環器で相談してみてください。
3)浮動性めまい──一自律神経失調症はこのタイプ。
ふわふわ・フラフラするめまいです。非回転性で、立ちくらみでもなく、マヒや強い頭痛がないものです。多くは慢性的です。ときどきあるもの、持続的にあるものもあります。また歩いている最中だけの場合も、じっとしていてもある場合など、そのパターンは一定しません。
心療内科を受診してください。またこれ以外でも、他の科で「異常なし」とされた場合も心療内科の治療で改善する可能性があります。

自律神経失調症のめまい(浮遊性めまい)の原因、治療

自律神経失調症のめまいはストレスや睡眠不足、生活のリズムの乱れ、過労なども関係するので、先ずはこうした問題を少しでも改善することが大切です。
めまいを軽減する薬としてメイラックス、リーゼ、リボトリール、イソメニール、漢方薬などを使います。70~80%の人は治療を開始して数日~二週間で症状が軽減します。
しかし数カ月しても改善しない人も5~10%います。こうした場合、もう一度、耳鼻科や神経内科などを受診してもらうことになります。もっともこうした科で「異常なし」と言われて心療内科で受診したというケースが大半なので、治療に苦慮する場合も少なくありません。

 


更年期障害と自律神経失調症

(女性)更年期障害とは

女性の閉経は平均50歳です。更年期は閉経前後5年間、つまり45歳-55歳を指します。更年期障害とは、更年期に現れるさまざまな症状のうち、他の病気を伴わないものを呼びます。
更年期障害の原因は、ホルモン(卵胞ホルモン、エストロゲン)の低下だと理解している人が多いようですが、原因はそれだけではありません。ホルモンの低下に加え、加齢に伴う変化や、更年期に特有な女性が抱える心理的、社会な要因が複合的に影響すると考えられています。

更年期障害の主な症状

更年期障害で一番知られているのは、暑くもないのに急に汗が出るホットフラッシュです。これは更年期障害特有の症状といえるものですが、他に以下のような症状があります。
〔体の症状〕のぼせ、多汗、冷え、動悸、胸痛、息苦しさ、疲れやすさ、
  頭痛、肩こり 、めまい、腰痛や関節痛、
嘔気、食欲不振、皮膚の乾燥、かゆみ、頻尿、外陰部の不快感
〔精神症状〕イライラ、抑うつ気分、情緒不安定

更年期障害と自律神経失調症、どこが違う?

更年期障害と自律神経失調症の症状はとても似ています。この二つの病気、いったいどこが違うのでしょうか。私はホットフラッシュを除いて、症状だけではこの二つを区別できないと考えています。
更年期障害だと診断するには、血液検査でエストロジェンの低下や、老化した卵巣を活発にするために脳下垂体から分泌されるホルモン(性腺刺激ホルモン)の上昇が参考になります。
ただしエストロジェンや性腺刺激ホルモンのこうした変化はあくまで年齢に伴う生理的変化であり、病的変化ではありません。その証拠に、更年期に全く症状が無い人も沢山いいます。ですから血液データはあくまで参考資料なのです。
一方、自律神経失調症を積極的に診断できる検査は現時点ではありません。そこで、やや乱暴ですが二つの違いは次のようになります。
自律神経失調症と診断できる更年期の女性において、ホットフラッシュの症状や、血液検査でのホルモン異常(変化)がみられる人が更年期障害である、というのが現実的でしょう。このように更年期障害と自律神経失調症は重複する概念です。

更年期障害の治療法

今述べたような理由で、更年期障害の治療法も自律神経失調症と重なります。ただし婦人科で行う更年期障害の治療として、ホルモン補充療法(HRT)やプラセンタがあります。
これらホルモン療法は効果的な場合も少なくないのですが、当科では行いません。その理由は、当科では婦人科的な診察や検査ができないのと、治療リスクを否定できないためです。ホルモン療法を希望する場合には婦人科を受診して頂き、その治療でも改善が不十分なら、改めて当科への受診を検討して頂きたいと考えます。

 


月経前症候群、月経前不快気分障害

月経前症候群(月経前緊張症,PMS)

・月経前症候群とは
月経前症候群(PMS; Premenstrual Syndrome)は、生理開始の1~2週間位前からおこり、生理開始とともに消失するという特徴を持つ、身体的症状や精神的症状を示す病気を指します。
・原因
原因は不明です。有力な説としては、健康な女性は排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されるのですが、月経前症候群においては黄体期の後半にこれらが急激に低下するためだとする説があります。しかし実際には月経前症候群はもっと多くの原因で起こるようです。
・症状
身体症状:のぼせ、食欲不振や過食、めまい、倦怠感、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなど
精神神経症状:情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害など
・治療法
1)一般的な注意点
月経前症候群は、比較的はっきりと悪くなる時期や改善する時期が分かる病気なので、その時期が来ることを前提した生活の予定を立てておくとが大事です。
また不眠や過労、ストレスは症状悪化につながりやすいので、この時期はとくに気をつけるべきでしょう。
2)薬物療法
排卵抑制療剤:婦人科では低用量経口避妊薬(低用量ピル)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP)などを勧めることが多いようです。これは排卵を止めることで、女性ホルモンの変動が無くなるので症状は軽快します。
抗うつ剤:SSRIが有効とされている。ただし、身体症状が主体の例に対しては効果がない例が少なくないという印象を私は持っています。
漢方薬:加味逍遥散、当帰芍薬散、桃核承気湯、女人散、抑肝散、桂枝加竜骨牡蛎湯などは試す価値がある薬でしょう。
その他:自律神経失調症に準じた治療で改善する場合も少なくありません。また痛みに対しては鎮痛剤、むくみに対しては利尿剤が使われます。
婦人科だけ、または心療内科だけの治療で改善することも多いですが、改善不十分なら婦人科と心療内科の両方への通院が必要でしょう。
・家族や周りの人に対して
月経の周期は本人だけが知っている場合が大半なので、家族などの周りの人にとっては「急に体調が悪くなった」とか「急に仕事(家事)ができなくなった」ように映ります。残念ですが周りの人はあなたに好意的ばかりとは限りません。このため「仕事(家事)をしたくないだ」などと、誤解される場合さえあります。
家族や周りの人にこの病気を理解してもらえるのが一番よいのですが、それが無理で誤解される可能性がある場合は、「何日ごろ体調不良のため仕事が十分できないかも」と事前にそれとなく予告するのも一つの方法でしょう。

月経前不快気分障害(PMDD)

・月経前不快気分障害とは
月経前不快気分障害(PMDD;Premenstrual Dysphoric Disorder)は月経前症候群のうち、とくに精神症状が強い場合を指します。
・原因
原因は不明です。月経前症候群に近いメカニズムがあると考えられます。
・症状
抑うつ、不安、緊張、情緒不安定性、イライラ、怒りの感情、気力や集中力の低下などの精神的症状が強いことが特徴です。これに加え月経前症候群と同じく、過眠や不眠、頭痛、過食、吐き気などの身体的不調も出現することがあります。
月経前不快気分障害は、症状が生理開始の1~2週間位前からおこり、生理開始とともに消失するという点は月経前症候群と同じですが、精神症状が強く日常生活や社会生活へ支障をきたしてしまう点が大きな特徴です。
・治療
月経前症候群とほぼ同じですが、ホルモン療法に加え抗うつ薬や精神安定剤が必要にったり、月経前症候群よりも薬でコントロールしにくい例が少なくないようです。
このため、婦人科と心療内科(または精神科)の両方で治療を受ける必要があるでしょう。
・家族や周りの人に対して
月経前症候群での話と重なりますが、家族などの周りの人にとっては「急にイライラしたり怒りっぽくなった」とかとか「急に返事をしなくなった」ように映ります。このため家族や周りの人が戸惑うだけでなく、口論になったりして人間関係が悪化することすらあります。
家族や周りの人にこの病気を理解してもらえるのが一番よいのですが、それが無理で誤解される可能性がある場合は、「何日ごろ怒りっぽくなるかもしれないけど、それは私にとっても不本意なことなの」といった時期と状態の予告するという方法もあるでしょう。

 


心気症(病気不安症)

心気症とは

心気症はごく些細な症状や、健康な人でも感じるような生理的な現象を「癌などの重い病気」の兆しと捉え、恐怖や不安にさいなまれる障害です。
心気症の患者がよく気にする症状としては、微熱,発汗、動悸(心拍の自覚)、胸の違和感、腹部膨満、腹鳴、痛み、疲労感などです。
このように、訴える症状自体は自律神経失調症とも共通するのです。自律神経失調症との違いは、患者さんが望んでいることが、症状の軽減ではなく、重い病気かどうかの確認である点が違います。
さまざまな検査をして「異常がない」と言われても、「検査ミスではないか」とか「医者が病気を見逃したのではないか」という不安がとれません。
心気症は成人期初期に発症することが多く、何年も続くことがあります。なお男女の性差はありません。

治療に向けて──大切なのは信頼関係

大切なのは受診先の医療機関や担当医との信頼関係でしょう。心気症の患者さんは、重い病気にかかっているのでは、という心配があるわけですから、まずは検査をしてその可能性を検討することは不可欠です。
しかし患者さんのなかには、一つの病院で検査を受けて「異常なし」と言われても安心できず、他の病院で同じような検査を希望することがありますが、これはお勧めできません。
患者さんはネットなどを駆使して、さまざまな病名や検査方法を自分なりに考え付くようですが、専門家からみると見当外れのことが少なくないからです。
また複数の施設で同じような検査を受けるのは時間と費用の無駄です。データを一カ所に集めるという意味でも検査は一カ所の病院で受けるのが望ましいでしょう。
かりに他の病院を受診するにしても、担当医師と相談して紹介状をもらった方がよいでしょう。そうすると紹介先の検査結果などの情報もフィードバックされるからです。

薬物治療

薬だけで「重い病気ではないか」という考え方そのものを変えるのは困難ですが、薬の治療は試みる価値はあります。
その理由は、一つには不安感や、心配事が頭から離れない状態を軽くできる可能性があるからです。
また重い病気を疑うきっかけになった症状を軽減できる可能性があります。たとえは「食欲がない。ガンではないか」と不安になっても、実際に食欲が改善すれば、癌不安が遠のく可能性があります。

カウンセリング

カウンセリング(支持的精神療法、認知行動療法)も試みる価値があります。ただし患者さん自身が「私は体の病気の心配をしているのにカウンセリングなんて」という気持になり、継続的な治療を望まないケースがよくあります。
しかし先程も述べましたが、カウンセリングにしろ、通院治療にせよ同じ担当者(担当医)のところに定期的に通うことは、心気症の改善への重要な第一歩です。

 


慢性疲労症候群

慢性疲労症候群とは

慢性疲労症候群(CFS)は1988年にアメリカ防疫センターにより、風邪様症状に始まる長期にわたる著しい疲労感や身体痛、睡眠障害、慢性頭痛、うつ状態などを特徴とする症候群につけられた名前です。
アメリカで集団発生例が報告されたことより「未知のウィルスが原因?」「第二のエイズか?」と騒がれたこともありました。ただ、身体所見や検査所見で特異的なものがないため、疾患単位(一つの病気)とすべきかどうか、現在も疑問視されていいます。
また、例えばうつ病や自律神経失調症、不定愁訴症候群といったものとどう違うのかも不明確です。こうした事情もあり、積極的にこの病気の存在を認めようとする人は少数派です。私も、慢性疲労症候群の診断を自分から下したことはありません。
なおこれは、疲労が蓄積された状態の慢性疲労とは別のものです。

慢性疲労症候群の診断

定義があいまいなので、診断は非常に困難です。
診断につながる特異的な検査もありません。通常は、一般的な血液検査に加えて、甲状腺やリウマチ因子、エイズや肝臓に関連するウイルス検査、胸部レントゲンなどで他の病気を否定することが行われています。
したがって診断は、以下の診断規準を満たすような症状に加えて、他の考えられる病気を除外する、という方法で行います。
米国疾病予防管理センター(CDC)による診断基準は以下のようです。(概要) 1. 医学的に説明がつかない、持続性または再発性の疲労が6カ月以上続き、以下の条件をすべて満たす場合。  それまでに経験したことがない、またははっきりした始まりがある  運動によるものではない  休息しても大幅に回復することがない  職業、学業、社会的活動、個人的活動に大きく支障を来す 2. 以下の症状のうちの4つ以上が6カ月以上続く。  職業や学業、社会的行動、個人的行動に支障が出るほどの短期記憶の低下、またはひどい集中力の低下がみられる  のどの痛み、微熱、首や腋下のリンパ節の圧痛、筋肉痛、腹痛  複数の関節に痛みがあるが、腫れや圧痛は認められない  過去のものとは種類やパターン、または重度が異なる頭痛  睡眠を取っても疲れがとれない  運動後に体調不良が24時間以上続く 診断にあたっては、これらの症状が、疲労感のある期間中(その前ではない)に持続的、または反復的に起こることが必要

原因、治療法、予後

原因
原因は不明です。当初、未知のウイルスが考えられたきですが、今では否定的です。しかし一部の症例ではウイルスや他の病原体が原因となる、とかウイルスによって生じる免疫学的異常がこの病気の発症や進展に関与している、と主張する報告もあるようです。おそらく複数の要因が関係しているのでしょう。
治療法
特異的な治療法はありません。自律神経失調症や不定愁訴症候群、うつ病に準じた治療などが行われています。
具体的には補中益気湯などの漢方薬、抗うつ剤、ビタミン剤などで、この他、非ステロイド系消炎剤、免疫機能を賦活する薬などさまざまな試みがなされています。
予後
長期間のフォロ-では、約6割が再発を繰り返しながらも徐々に軽快し、2割が症状悪化または不変、2割が自然治癒するという報告があります。

 


疲労に効果的な健康食品や薬はある?

「疲労に効果があり」とうたっている健康食品や健康器具をよくみかける。しかしその根拠は曖昧で、データを示しているところも、その食品を販売しているメーカが自分の都合の良いように集めているところが多く、しっかりした調査研究(エビデンス)で効果を示されたものは、ほとんどないというのが実情のようだ。
 また公的機関が効能を検査したものならエビデンスがあるので大丈夫と明言できるかというと、必ずしもいえないようだ。たとえば消費者庁が2012年「食品の機能性評価モデル事業」での報告書では以下の11成分に関する情報を収集し、AからFまで判定して公表した。
それはセレン、n-3系脂肪酸、ルテイン、コエンザイム Q10、ヒアルロン酸、ブルーベリー、グルコサミン、分枝鎖アミノ酸(BCAA)、イチョウ葉エキス、ノコギリヤシ、ラクトフェリンである。
しかしその結果に対し、たとえば名古屋文理大教授の清水俊雄氏は、判定の方法が適格性を欠いている、と指摘している。氏によると、判定にあたって評価材料とすべきでない論文を含めていたり、文献などの検索を健康食品に関連する企業の社員が行ったりしたようだ。
 また一時期、もてはやされた抗酸化食品にも批判的な目を向けられている。眼予防にも効果あるとされたβカロチンはサプリメントの服用によって喫煙者やアスベスト暴露者の死亡率を上げるという臨床試験が1996年に発表されタ。また、その後も有効性を示すエビデンスは出ていない。多数の臨床試験によるシステマティックレビューでも、抗酸化物質サプリメントが死亡率リスクを下げず、むしろ上げるものさえあることが明らかとなっている(注h1)。
 では医薬品の場合はどうだろうか。病院で「疲れに効く薬がほしい」と医師に頼むと、「そんなものはない」と断られるか、ビタミン剤または漢方薬が出されるかのどちらかであろう。たとえばビタミン剤が疲労改善によいという話は以前からあるし、補中益気湯などの漢方薬では効果あったという研究報告もあるのだが、エビデンスといえるほどのしっかりした調査報告はないというのが現状である。
次に進行性のがんに伴う疲労に対して使われる薬を検討してみよう。覚醒剤の一種である精神刺激剤が外国では使われることがある(日本では原則禁止の薬物)。覚醒剤はたしかに一時的に元気になるようだが、薬が切れると強い疲労感に苛まれるという欠点がある。
 この他、ステロイドが有効であるとの報告もある。ただステロイドは胃腸障害や易感染性などの副作用があるので、使用に消極的な医師も多い。
 漢方薬はがん患者の疲労改善を狙ってしばしば試みられ、たとえば補中益気湯が効果があったという報告がある。この他、十全大補湯や人参養栄湯なども使われる。  抗うつ剤ががん患者に対して使用されることがあるがパロキセチン(パキシル)やセルトラリン(ジェイゾロフト)は疲労改善に関しては効果がないという報告がある。一方ブプロピオンという日本では未発売の抗うつ剤(bupropion、ノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬) で疲労改善があったという報告がある。
サプリメントに関してはマルチビタミン、カルニチンなどは効果がなかったという報告がある(注h2)。
がん患者の疲労対策として多くの医師が勧めるものは、睡眠と休養、適度な運動、栄養や水分補給といった、健康な人を含めて当てはまる方法のようだ。  健康食品や健康器具は巷にあふれている。しかしそのどれもがエビデンスを示して「疲労に効果あり」と主張しているわけでもない、という現状をどう考えたらいいのだろうか。疲労に困っている人が多く、健康食品はそうした要望に答えるために開発れさているのは確かであろう。また健康食品の全てがプラセボ(偽薬)効果というわけでもないと思う。  こうした混乱を引き起こす原因はいくつもあると考えられるが、その一つは一口に疲労といってもその中身はさまざまであることだ。たとえばがんに伴う疲労と、運動による疲労、気疲れによる疲労とはそれぞれ違うはずだ。これを一まとめにして疲労として議論するのは無理がある。また疲労を客観的に測定する指標や方法が確立されていないという問題もあるだろう。

(注h1) そもそも、効くサプリはあるのか? 松永 和紀 http://www.foocom.net/column/editor/9159/ 
(注h2):がん関連疲労に対する薬物療法 日本緩和医療薬学雑誌 吉澤一己ら 7,1-6,2014

 


    

疲労を客観的に計る指標はある?

「疲れた」と感じたとき「はたして自分はどの程度疲れているのだろうか? 疲れたと思っているだけなのか?」と自問しても答えが見つからない。また医師から「疲れているようですね」と言われても、その医師だって明確な根拠を持っているわけではない。
 こんなことになるのは疲労を客観的に計測する方法がないからである。しかし客観的に測定できれば、仕事を休んだ方がいいかどうかといった判定や、疲労回復の薬や健康食品の開発にも役立ちそうだ。ここで現時点で疲労の測定に役立ちそうな研究を紹介する。
 疲労が蓄積したとき現れる体の変化として、作業能率の低下やメマイなど自律神経系が影響していると思われる症状が出る。以下、疲労の測定法として注目されている指標のうち日本疲労学会などでも取り上げられているものを挙げる。


その1 酸化ストレス

はじめに私たちの体内でのエネルギーの仕組みを簡単に説明する。私たちが食物として摂取した栄養素は、体内で糖の一種であるグルコースや脂肪酸に分解され、その後さらに細胞中にあるミトコンドリアで次のような過程でATP(アデノシン三リン酸)が産生されて、エネルギーが蓄えられる。そしてATPから、リン酸が一つ離れてADP(アデノシン二リン酸)となったときエネルギーが発生する。
 食物+酸素→水+二酸化炭素+ATP(アデノシン三リン酸)
 ATP→ADP(アデノシン二リン酸)+リン酸+エネルギー
 このATP→ADP+エネルギー→ATPというサイクルは一日数百回繰り返されるが、ATP産生の際に使われる酸素の一部は活性酸素と呼ばれる物質に変わる。活性酸素は酸化する能力が高いため細胞を傷付けることがあるが、通常では活性酸素は酵素や抗酸化剤によって消去される。この仕組みを「酸化ストレスの防御系」と呼ぶ。
 しかし、過活動なとで活性酸素の生成と消去のバランスがくずれ、活性酸素種が過剰に生成・存在すると、酸化ストレスの状態となる。
 ただし酸化ストレスは疲労に関連して注目されているが、現時点でも疲労の関係が明確なわけではない。酸化ストレスがたまる原因として、心理的・肉体的ストレス、過度の運動や運動不足、偏った食事、喫煙、さらにな紫外線や放射線・大気汚染・タバコなど日常生活の要因によるもの、そして老化や糖尿病や心臓の病気、アルツハイマー病や慢性疲労症候群といった病気などの可能性もあるとされているが、逆に活性酸素は有益なこともある。
 酸化ストレス測定する方法として代表的なものとして活性酸素種(ROS)を直接測るものや、DNA,RNA,タンパク質または脂質などの生体分子の損傷から推定する方法があるが、まだ精度や安定性などに問題があり日常的に役立つ測定法はまだないようだ。

参考資料
健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/sanka-sutoresu.html
渡辺 恭良: 疲労の科学・脳科学と抗疲労製品の開発.日本生物的精神医学雑誌 24:200-210,2013 このため内科~。


その2 自律神経検査

自律神経失調症という病気がある。これは疲労感やめまい、肩こりなどの症状を呈する病気として知られていて、こうした病名があることからも自律神経と疲労は関係がありそうに思われ、実際に自律神経検査で自律神経失調症の重症度や疲労の程度を計ろうとする試みがなされている。
自律神経には交感神経と副交感神経の二種類があり、いずれも内臓や血管などの「意識とは無関係に」働いている器官を制御している。このうち交感神経は運動や興奮、緊張、恐怖などと関係する。一方、副交感神経は睡眠や休息など、リラックス状態と関係するとされている。
 自律神経検査は心臓の拍動に注目したものが多く、ここでは日本疲労学会が疲労の指標の候補として挙げているLF/HF(自律神経バランス)を紹介する。それというのも心臓拍動に注目した検査の原理はLF/HFと共通であるからだ。
 まずは心臓の拍動の仕組みと自律神経(交感神経および副交感神経)の役割を説明する。心臓には洞房結節という拍動のリズムを調節しペースメーカの役割をする筋肉細胞がある。洞房結節の拍動は呼吸変動(呼吸による肺の膨らみの変化)によってできる三~四秒の周期を持つ高周波(HF、Hi Frequency)と、血圧変動による十秒程度の低周波(LF,Low Frequency、メイヤー波)の影響を受ける。
副交感神経が亢進すると、血圧変動と呼吸変動はどちらも心拍変動に反映されるが、交感神経が亢進したときは血圧変動だけが心拍変動に反映される。それというもの交感神経が亢進したときは低周波(血圧変動)は心拍変動に反映されるが、高周波(呼吸変動)には反映されない性質があるためである。
 この違いを利用して心拍変動を観測することで自律神経のバランスを推定することが可能になる。ただしこれらは個人差(年齢や病気などを含む)や測定条件によっても値が異なるため確度の高い指標とはいえない。
さらに重要な問題は、自律神経機能は心拍変動に影響を与える要因の一つでしかなく、その他にも様々な臓器、器官の機能が心拍変動に影響を与えており、心拍変動の詳しいメカニズムも完全には解っていない。そのためこの指標のみで自律神経機能やそのバランスが判断できるとは言いにくい。
というわけで、自律神経機能の正確な測定法は今のところないというのが実情だろう。当然ながらまた疲労と自律神経の関係も明確とは言えない。ちなみに(自律神経失調症という病名も、自律神経とどこまで関係あるのかも疑問である。

引用元 ストレスと自律神経の科学


その3 ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)を利用した疲労測定

疲労やストレスの測定法は大きく分けて三つある。一つは心理学的な評価法である。これは自己申告の評価になり客観性に問題がある。もう一つは生理学的方法で、自律神経検査はその代表であり、今し方述べた。
 この他にバイオマーカーとも呼ばれる生化学的方法があり、先程あげた酸化ストレスもその一つであるが、ここでは今注目されているヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)を利用した疲労測定について説明する。
 疲れると口唇にヘルペスが出るという体験をした人は珍しくないだろう。口唇ヘルペスは1 型(HHV-1)であるがHHV-6も疲れた場合に出現しやすい。HHV-6は突発性発疹や熱性ケイレンの原因とされるもので、ほぼ全ての成人は潜伏感染している。そこで唾液中のHHV-6を測定することで疲労の程度を推定するというものである。唾液中のHHV-6は仕事の時間や強度に従って増加し、休息によって減少する性質がある。
さらに疲労刺激によってHHV-6の再活性化が生じるということを手がかりに疲労の原因となる疲労因子(FF)や、その疲労を回復させる因子(FR)も見つかった。この他HHV-6は一週間程度の、HHV-7は一カ月以上の疲労の蓄積の指標となることも分かった。
この研究は、疲労と慢性疲労性症候群やうつ病との関係の解明にもつながる可能性があるとして注目されてる。それというのも,健康な人はHHV-6が活性化するとある遺伝子タンパク(SITH-1)が生じるのだが、うつ病や慢性疲労性症候群ではそれが生じにくいという現象が見られたからである。
 ただし、では疲労の原因はこれだった! とまで表現するのは適当ではなさそうだ。たとえば単純な肉体労働による疲労であっても、脳を含む体のさまざまな部位への影響があるはずだ。したがってHHV-6の活性化は多くの変化の一つを捉えただけと理解すべきだろう。
HHV-6の研究は疲労の解明への大きなステップとはなると想像するが、これだけで疲労測定が可能というのも無理がある、と私は考えている。

近藤 一博: 疲労誘発因子と抗疲労因子.日本生物的精神医学雑誌 24:218-221,2013

 


「疲労とは何か」の定義は難しい

疲労を客観的に測定する方法はないのだろうか? そんな興味から調べ始めたのだが、基本的なところで難問にぶつかった。それは「疲労とは何か」の定義が、はっきりしないことだ。
 たとえば「疲労」と「疲労感」は違うという意見がある。先程も引用した近藤によると「疲労」という言葉は、過度の生命活動による生体機能の低下を示す「末梢組織の疲労」と、脳が疲労を感じる仕組みである「疲労感」の両方の意味を含んでいる、としている(注h2)。
 たしかに疲れたと感じていても、おいしいお菓子を食べたり、親しい人とだべっただけで「あれ、さっきの疲れはどこにいったんだろう」という気持ちになることもあるので、疲労感と疲労は一致しないという指摘には私も賛成である。
 また「精神疲労」という言葉もある。この疲労の程度を測定する試みとして、暗算などの計算問題をさせて、視覚探索課題の探索時間、心拍数、鼻部血流量、心電図R-R間隔変動係数、心拍変動指標など測る試みがあるところからをみると、「疲労感」と「精神疲労」も違うことがわかる。どうやら精神疲労は頭脳の疲労とでも表現すべき用語のようで、過度の精神活動による生体機能の低下(パーフォーマンスの低下)を指す言葉のようだ。
 またストレスと疲労の違いも、いま一つわかりにくい。たとえばウィキペディアにでは、ストレスとは、生活上のプレッシャーおよび、それを感じたときの感覚である、としている。ブリタニカ国際大百科事典の解説では「刺激により引起される非特異的な生体反応。生体に加わる力をストレッサー、それによって起る生体の反応をストレスという。」とある。
今度は専門家によるストレスの定義を紹介すると、田中正敏(心身医学、末松弘行編 医学書院)は次のような要旨を述べている。
〔生理学的には、下垂体-副腎皮質系が賦活されるような状態がストレスである。ただこれらの系が賦活されなくてもストレス状態という場合がある。心理学や社会学の分野では、ストレスに認知過程が重要で、認知の歪みがストレスになるという場合もある。
 もともとストレスという用語は、工学の領域で刺激が加えられさいに物体に生じる歪みを意味していた。それを医学の領域に持ち込んだのがキャノンで、一般的に広めたのがセリエだ。セリエによればストレスとは生体への要求に対する生体の非特異的反応のことである。〕
これまたわかりにくい説明である。私は疲労は肉体、ストレスは精神、と漠然と考えていたが、これは違っているようだ。それというのも肉体労働が荷重だったり、残業時間が長いて辛いというのも(物理的)ストレスと呼ぶからだ。
 ただ、定義が分からないまま、話を進めるのもどうかと思うので、とりあえず自分なりの定義をしておく。
 疲労は、過度の生命活動による生体機能の低下(パーフォーマンスの低下)で、それを感じる状態が疲労感。ただし疲労感とは本来のパーフォマンスに戻ることに対する困難感のことで、実際の機能低下の程度とは必ずしも一致しない。また精神疲労は(肉体)疲労の定義に準じる。
 一方ストレスは、外的要因のために本来のパーフォーマンスが発揮できない状態。またそのため感じる不全感や苦痛を指す。
 また原則として、疲労は内的要因で生まれ、ストレスは外的要因で生まれるものといえそうだ。

(注h2)心身相関の源流にある「疲労」を科学する.近藤一博:心身医,54(9).828−833,2014

 


肩凝り

肩凝り

肩凝りは心療内科の病気ではないが、患者さんで「肩凝りに困っている」という声を良く聞くので、私なりにネットや本で調べてみた。調べてみて驚いたことは、肩凝りを専門的に研究している医者はあまりいないという現実である。以下、私なりのまとめである。

1)肩凝りは、肩周辺の凝り症状の総称

 肩凝りといっても、肩周辺全体の症状というわけではなく、凝っている箇所や筋肉は個人によってさまざまである。
 人間の体が持っている構造的な特徴のため肩凝りは避けられないようだ。というのも、一つには腕があるからだ。人間の腕は、僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋、三角筋といった肩関節の周りの筋肉によって吊り下げられている。これらの筋肉には、常に腕の重みという負荷がかかっている。これに加えて重いものを持ったり、物を持ち上げたりするとさらに負荷がかかり肩凝りにつながる。
もう一つは頭部の存在だ。なにしろ頭部の重量は体全体の10%を占める。頭部を前に傾けるだけで肩周囲の筋肉への負担が増えるので、肩凝りなってもおかしくない。ちなみに最近は肩凝りを訴える中高生が増えているそうだが、その理由の一つはスマホを覗き込むためうつむき加減になるからのようだ。

2)肩凝りの原因

 今述べたように頭部と手という人間が持つ構造的な理由によって、筋肉(主に僧帽筋)への緊張や負荷が続くために生まれる筋肉疲労としての要素がある。そして筋肉が引っ張られることで、筋肉に挟まれている神経や血管が圧迫され、筋血流が減少したり乳酸が蓄積するという要素がある。
 またストレスでも肩凝りなるが、これは精神的な緊張によって肩周辺の筋肉の緊張を生むからであろう。

3)肩凝りの治療

整形外科などで処方される薬としては内服薬や外用薬、注射薬がある。
内服薬としては炎症を抑えて痛みを軽くする消炎鎮痛薬(ロキソニンなど)や、筋肉の緊張を緩めて血流改善をはかる筋弛緩薬(デパス、テルネリン、リンラキサー、ミオナールなど)、そして筋肉疲労や神経機能の回復に役立つとされるビタミンBなどがあり、また漢方薬(五積散など)が処方されることもある。
外用薬としては消炎鎮痛薬が配合された貼り薬、すなわち湿布やテープ(ロキソニン,モーラスなど)、そしてローションなどの塗り薬やスプレーなど(ロキソニン、インテバン、カトレップなど)がある。
貼り薬と、塗り薬やスプレーとの比較では、貼り薬の方が効果が長続きするが、皮膚のかぶれや湿疹などの副作用が出やすい。一方、塗り薬やスプレーは、かぶれや湿疹が出にくく効果も早いが、作用時間が短いという欠点がある。
 注射薬としては凝りや痛みがある箇所への局所麻酔薬やステロイドなどの注射、そして痛みや凝りに関連する神経への神経ブロック注射がある。
 薬物療法以外の治療としては整体、マッサージ、鍼灸、あんま、カイロプラクテック、整体などがある。薬物療法を含めて、どの治療法も「効果があった」という人がいる一方で、否定的な感想を持つ人も少なくない。

4)薬や施術は対処療法

 効果が一定しないのは、凝りといってもその原因はさまざまで、個人差もあるからだろう。さらにいま挙げた治療法は一時的な対処療法であり、原因に直結したものとはいえないという理由もある。
 根本的な肩凝り解消に繋がるものとしては、次の三つを日常的に心がけることだろう。一つ目は姿勢の改善である。とくに頭部が前に出てしまう前傾姿勢など歪んだ姿勢を是正して、頭部を含めた体の重心軸が真っ直ぐ、足の土踏まず辺りにくるようにすることだ。二つ目は、腕と頭部の負荷が常にかかっている肩甲骨付近の筋肉が常に柔らかい状態にすること。これにはいわゆる肩凝り体操(肩甲帯の体操)などが有効だろう。三つ目はストレスなどで筋肉の緊張状態が続くのを避けることである。

5)私自身と肩凝り

 ただし、そのどれも日常的に実践するのは簡単ではない。それが「肩凝りは治らない」といわれる一番の理由なのだろう。
 ちなみに私の場合を述べておく。私はよく「うつむき加減(頭部が前に出ている)だ」と指摘される。もともと姿勢が悪いのだが、本を読んだり字を書く作業、それとパソコン画面を見る機会が多いことがそれに輪をかけているのだろう。
 これを全面的に止めるのは難しいので、代わりに自分の姿勢を常に気をつけて修正する必要がある。しかしそれは「癖を治す」のに近い作業なので簡単ではない。
 次の肩甲骨付近の筋肉を柔らかく保つことについて。前傾姿勢など悪い姿勢のままだと柔らかく保つのは不可能だろう。それでも何か日々の工夫をすると多少は改善するはずだ。私なりに試みていることは、「気持がよい方向に体を動かしてみる」というごくシンプルな方法を、暇なときや寝る前など、思い付いたときにごく短時間(せいぜい数分程度)やっている。これが特別優れた方法とは思わないが、自分なりに工夫できるという点でお勧めしたい。
三つ目のストレスに関して。私はストレスフルな緊張状態が続くといつのまにか肩が上がってしまう癖があった。これなら当然肩が凝るのも当然だが、それなのに長い間、緊張すると肩が上がるという癖を自覚していなかった。ある日、知人から指摘され、その日から自分の肩を意識するようにしたところ、夕方近くになると毎日のように自分の肩が上がっているのに気づいた。そこで意識的に力を抜くと、ストンと肩が落ちるのもわかった。
 不思議なもので、肩が上がっているというのが実感でき、さらにどうしたら肩を落とせるかが分かっただけで、まもなく改善のための方法が見つかった。
 具体的なやったことは、ときどき自分の肩に意識を向けるだけだ。意識を向けて肩の力を抜くようにしていると、やがて特別意識しなくても力が抜けるようになってきたのだ。
 先程「姿勢が前のめりになってしまう癖」は治すのが難しいと述べたが、この「緊張によって肩が上がる癖」については、意識するだけで改善した。この違いは何かというと、それはもともと人間はより「楽」な方を選ぶ習性があるからだと思う。
たとえば私は近視なのでパソコン画面を見るときは、画面に目を近づけた方が楽なので、どうしても頭部が前に傾いてしまう。頭部が前のめりになることによる負担よりも、目を近づける楽さの方が上回っているならば、なかなか変わらない。それに比べて、緊張で肩が上がるのも癖になったという点では同じだが、それは無理な姿勢なので、肩の力を抜いた方が楽とわかれば、癖であっても矯正できやすかったのではないか。

6)「体から心へ」はあるか

 話は少し脱線するが私が興味を持っていることがある。筋肉の緊張の話もそれに関連するので述べておくが、それは「体は心に影響を与えるか」である。
まずここまでの話を整理しよう。ストレス、つまり精神的な「緊張」によって肩が上がるなどの物理的「緊張」が生まれると述べた。つまり心は体に影響を与える、ということだ。
 では逆方向はどうなのか。私は最近、肩が上がることが少なくなったが、では緊張することも少なくなったのだろうか?という興味である。残念ながら自分のことながらはっきりしない。それというのも、たとえばどの程度緊張したのかという比較は、昨日と今日ぐらいなら不可能ではない。しかし数日前とかもっと前との緊張の程度の比較となると、なかなか思い出せで比較しにくいからだ。
 しかし「体は心に影響を与える」というのは正しいと考えている。というのも、脳科学の研究によると、恐怖の場合ではそれがいえるからだ。たとえば山の中で黒い物を見ると、それが何か分からない時点ですでに体は恐怖状態になる。そして体が恐怖状態になることで、心の変化、すなわち恐怖感が生まれるというメカニズムがある。緊張に関して恐怖と同じメカニズムがあるかどうかは現時点では明確でないが、その可能性は十分ありそうだ。

 


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